アメリカの雇用統計は、アメリカの現状を反映しているのか?

アメリカマンハッタン アメリカ経済・社会

この記事では、アメリカの雇用統計について解説していきます。

このサイトでは、投資対象となるアメリカの企業だけでなく、経済や社会の気になるニュースをもとに、いろいろなテーマの記事を書いています。

 

最近ですと、サンフランシスコやカリフォルニア州で、犯罪が多発しており、多くの大企業が他の州に本社を移転させたり、小売店が相次いで閉店してしまったことで、商業エリアがゴーストタウンになっているという状況を解説しました。

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このようなニュースは、日本でも紹介されているため、最近のアメリカの雇用統計に疑問を感じる人もいるのではないでしょうか?

例えば、2023年7月の失業率が3.5%ということですが、アメリカ第1位の人口を持つカリフォルニア州で、かなりの混乱が起こっているのに、そんなに低いのか?と思いませんか?

 

そこで、この記事では、アメリカの雇用統計を詳しくデータを紹介していくことで、どのように理解すればいいのかを解説していきます。

 

1、アメリカの雇用統計とは?

アメリカの雇用統計とは、アメリカ労働省が毎月第1金曜日に発表している統計で、失業率や非農業就業者数など、10数項目について公表されています。

 

特に新聞やニュースなどで話題に取り上げられるのが、「失業率」と「非農業部門雇用者(農業以外で雇われた人)の増加数」です。

この数値が前月より改善した(悪化した)と発表されることで、アメリカの今後の景気が今後良くなる(悪くなるだろう)と予想され、株式市場や債券市場(金利の動き)に影響を与えます。

 

アメリカの失業率と非農業部門雇用者数

(参考:アメリカ労働省)

 

それで、過去10年間の動きを見ると、新型コロナの感染拡大で全米でロックダウン(外出禁止令)があった2020年3〜4月に、大きな混乱がありましたが、その前後では、失業率・非農業部門の雇用者数ともに改善傾向にありました。

なので、毎月の雇用統計の発表を見てみると、基本的には「非農業部門の雇用者数」は増加しており、その増加数の程度によって、マーケットの反応が変わる、という状況だったと言えます。

 

アメリカの人口は、この10年間で、3億1,600万人から3億3,500万人へと、約1,900万人増えていますが、人が増えても仕事がなくて失業率が上がることもなく、働く人が増え続けていたわけです。

そのため、企業の売り上げも順調に伸び、株価の上昇につながってきたのです。

経済や投資系の雑誌を見ると、「アメリカ株やアメリカ株の投信が有望だ」と特集されているのを目にすると思いますが、それは、このような背景があったからなんですね。

 

これだけ利上げしても景気はいい?雇用統計が過大評価されている可能性

ですが、最近、この雇用統計が「本当に信頼できるものなのか?」と疑問視され始めています。

(参考:NRI「米雇用統計は景気を過大評価しているか?(6月米雇用統計)」)

 

というのも、アメリカでは、2022年のロシアのウクライナ侵攻のあたりから、物価が大きく上昇しており、物価上昇を抑えるために、急激な利上げを行っているからです。

 

アメリカの消費者物価指数と政策金利

(参考:IMF外為ドットコム

 

今回は1年で0.25→5.25%とかなり急激な金利上昇となっています。

これほど金利が大きく上がれば、住宅ローンの支払いが苦しくなる人も増えますし、借金もしにくくなるため、企業の売り上げは減り、景気は悪化します。

 

また、これまでアメリカ経済を引っ張ってきた大手ハイテク各社がリストラに動き出しています。

特にMETA社(Facebookの親会社)は、1万人規模のリストラを行っており、他の企業でもリストラの波が広がっているため、景気にはマイナス材料なはずです。

 

それなのに、雇用は増え続けている、というのは、何だか変じゃないか?

そういう疑問が出ているわけですね。

 

2、雇用統計は、どのように調査・集計されているのか?

そもそも、この雇用統計の数字は、どのようにして調査・集計されているのでしょうか?

アメリカ労働省のHPに詳しく書かれていますが、雇用統計とは、①世帯調査と②事業所調査の2種類の調査を組み合わせたものになります。

 

  ①世帯調査 ②事業所調査
調査対象 16歳以上の非民間施設人口 非農業部門の賃金・給与
調査方法 約6万世帯にサンプル調査 12.2万の企業・行政組織へのサンプル調査(約40%が従業員20名未満の零細事業所)
主な調査項目 全部門の雇用者数、失業者数、失業率、非労働人口など 非農業部門の雇用者数、平均時給など

 

例えば、①世帯調査は、無差別に抽出した約6万世帯への調査をもとに、雇用者数を推計するため、農業関係の人も含まれます。

一方で、②事業調査は、農業部門を除きますから、それぞれで出された雇用者の数も、増減数も異なってきます。

 

この2つの調査の雇用者の前月比の増減を調べた結果が、こちらになります。

 

アメリカの雇用者数の前月比増減

(参考:アメリカ労働省)

 

青色の棒グラフが、②事業者調査で、赤色が①世帯調査になります。

よく新聞やニュースで取り上げられる「非農業部門の雇用者数の増減」は、青色の棒グラフになります。この10年間でみると、新型コロナで混乱があった時期(グレーの網掛け部分)を除いて、ほぼ毎月、増加していますね。

 

それに対して、赤色の棒グラフは、年に2〜4回ぐらい、減少している月があります。

調査方法によって、正反対の結果になっているわけです。

最近の雇用統計が過大評価されているのでは?というのは、このような正反対の結果(事業者調査では増加しているが、世帯調査では減少している)が、目立ってきているからなんですね。

 

ただし、10年単位で見てみると、このような正反対の結果は、新型コロナ以前の景気が良かった時期にも起こっており、これだけでは判断が難しいとは思います。

 

アメリカの雇用統計の何が問題なのか?

このように、低い失業率で、雇用されている人も増えている状況を見ると、アメリカの経済は強いという印象を持ちますが、1点、注意すべきポイントがあります。

 

それが、非労働力人口の数です。

非労働力人口とは、「職探しをあきらめてしまった人」のことです。下の図の右下の丸が、それに当てはまります。

 

アメリカの雇用統計の対象範囲

(参考:アメリカ労働省)

 

真ん中の赤丸で囲んだところが、失業者です。

現在働いていなくて(休職・休暇中を除く)、直近4週間以内に職探しをしている人が対象となります。

 

一方で、会社を首になって、1ヶ月旅行に行っているとか、職探しを諦めてしまった人などは、対象外なのです。

これらの人たちは、右下の赤丸で囲んだ「非労働力人口」とカウントされます。

 

この定義自体が間違っていると言いたいわけではありません。

失業率などの労働環境についての国際比較をするために、国際労働機関(ILO)が出している基準があり、どこの国でも、この基準を参考に作っていますからね。

 

問題なのは、アメリカの「非労働力人口」の割合と増え方です。

 

アメリカの非労働人口と総人口

(参考:Fed St.Louis)

 

非労働力人口は、総人口の増加とともに増え続けてきました。

対象範囲が16歳以上なので、高齢者もこの中に含まれますから、非労働力人口(赤色の線)が増えること自体は、あまり問題ではないと思います。

 

非労働力人口の割合が、日米でほとんど差がない→アメリカの失業率は、過大評価なのでは?

ですが、アメリカの非労働力人口は、2023年現在、約1億人もいるのです。16歳以上の人口に占める割合は、約36.5%にもなります。

ちなみに、日本の非労働力人口は、約4,128万人で、16歳以上の人口に占める割合は、38.4%です。ほとんどアメリカと日本では、変わりありません。

 

ところが、日本とアメリカとでは、65以上の人口の割合は、日本の方が10%以上も高いのです。

つまり、働けない老人が多い日本と、ほとんど同じぐらいの割合で、働いていない人がいる国がアメリカなのです。

 

  アメリカ 日本
0〜15歳 6,591万人(19.4%) 1,635万人(13.2%)
16〜64歳 2億1,220万人(62.5%) 7,121万人(57.6%)
65歳以上 6,155万人(18.1%) 3,615万人(29.2%)
合計 3億3,967万人(100%) 1億2,372万人(100%)
     
非労働力人口 9,990万人(36.5%) 4,128万人(38.4%)

(参考:Census bureau International Database)

 

なので、アメリカの失業率は、現在3.5%前後ですが、それよりも上回る(非労働力人口として、対象外になっている人が多くいる)可能性があると考えられます。

 

新型コロナ以降の非労働力人口の動きがおかしい

また、新型コロナの感染が拡大した2020年以降の、非労働力人口の動きも気になります。

新型コロナの感染拡大によって、アメリカではロックダウンが出され、多くに人が職を失いました。

アメリカでは、ロックダウンによって失業補償も充実していましたので、仕事を失っても、すぐに仕事を探す人が少なく、そのため、非労働力人口が一気に増えたというわけです。

 

(赤色の線)2020年ごろに一気に増えた後、元に戻っていない

アメリカの非労働人口と総人口

(参考:Fed St.Louis)

 

ところが、それから3年以上たった現在でも、非労働力人口は、新型コロナ以前の水準まで下がっていません。

2017〜20年の3年間で、非労働力人口は約100万人増えていますから、このペースでこの3年間増えたと仮定しても、約150〜200万人は、仕事に戻れていないと考えられます。

しかし、この人たちは、「非労働力人口」としてカウントされ、失業率には含まれないのです。

 

まとめ:アメリカの雇用統計から、何がわかるか?

ということで、長々と書いてきましたが、まとめると以下のようになります。

  • アメリカは、海外からの移民や、高齢者の割合が少ないこともあって、基本的に雇用される人の数は増加傾向にある
  • お金を稼いでいる人の数が増えているため、消費が増え、企業の売り上げも伸びやすいため、経済成長が続き、海外の投資家からも有望な市場だと思われてきた
  • ただし、失業率に含まれない「非労働力人口」の割合が高いため、実際よりも失業率が高い可能性がある
  • そのため、ホームレスや薬物中毒者の増加などの、治安悪化や社会不安も同時に起こっている

と考えられます。

 

アメリカは、日本と違って、国土の面積が広いので、ヤバい人たちが増えても、郊外や他の州に引っ越したりできるため、経済成長と社会的な混乱が共存できるのかもしれませんね。

 

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