この記事では、新型コロナ以降にアメリカで人口が減少している州について解説していきます。
投資信託などの金融商品では、アメリカやヨーロッパなどの、海外の株式や債券を投資対象としたものが多く、また人気があります。
ですが、販売資料や運用レポートなどを見ると、有望な企業や、有望な業界などについては充実した説明がなされているものの、「その国がどのような状況にあるのか?」についての説明はあまりありません。
今のところは、世界的な株高が続いているため、あまり気にならない人も多いかもしれません。
ですが、新型コロナの感染拡大や、ウクライナ戦争、そして止まらない物価上昇など、日本で住んでいても、社会や経済に悪影響が起こっていることはいっぱいありますよね。
そこで、この記事では、
- アメリカで人口が減っている州、増えている州はどこか?
- 増加・減少している理由
- これから考えられる影響
について、解説してきます。
1、人口が増えている州・減っている州はどこか?
まずは、2020〜2022年の2年間で、人口が増加・減少している州を見てみましょう。
州別の人口増減(2020.7〜2022.7)
赤色(+30万人以上)>ピンク(+10〜29.9万人)>ベージュ(0〜+9.9万人)>水色(-1 〜 -9.9万人)>青色(-10〜 -29.9万人)>紺色(-30万人以下)
2年で30万人以上減少しているのは、ニューヨーク州(-43万人)とカリフォルニア州(-47万人)でした。
大都市のある州ほど減少している傾向にあり、人口でアメリカ第3位の都市シカゴがあるイリノイ州でも、約20万人減少していました。
その反面、増加している州もあります。
傾向的には、南部の州が多く、特にテキサス州(+80万人)、フロリダ州(+66万人)が多いですね。
2、なぜカリフォルニア州やニューヨーク州では、人口が減少しているのか?
新聞やニュースを見ると、
- 新型コロナでリモートワークを採用する企業が増えた
- ニューヨークやロサンゼルスのような生活費の高く、ロックダウン時にはとてもストレスの大きいエリアから、引っ越したい人が増えた
- 税金の安い州へ、企業が移転し始めている
といった解説がされています。
これは確かに間違いではないのでしょうが、大事な要素が抜け落ちています。それが、「(薬物中毒の)ホームレスの増加」と「治安の悪化」の可能性です。
カリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州などの大都市では、今、万引き・窃盗が多発しており、店舗の閉鎖、企業の脱出が進んでいるのです。
サンフランシスコでは、窃盗が多発して、店舗が相次いで閉鎖されている
特に著しいのが、サンフランシスコで、百貨店やスーパー、飲食店、銀行などでも、売り上げ減少の影響が出ており、相次いで閉店が起こっています。
店舗名 | 内容 |
ノードストローム(百貨店) | ダウンタウンの店舗を閉店。31.2万平方フィート(約2.9万㎡) |
ウェストフィールド(ショッピングモール) | 閉店。借金が返せないため、物件をそのまま債権者に譲渡して精算 |
ホールフーズ(高級スーパー) | オープン13ヶ月後に閉店 |
その他、有名ブランドの店舗 | 「アバクロンビー&フィッチ」「H&M」「ギャップ」など |
こちらは、サンフランシスコのマーケットストリートのお店が、ほとんどすべて閉店している、という模様を写した動画になります。
ご覧いただくとわかりますが、閉店しているため、店舗の奥が暗くて見えません。日本の地方都市のシャッター商店街にような状況です。
この結果、サンフランシスコでは、2020〜22年の2年間で、88→80.8万人へと、約7万人も人口が減少しています。
なぜ窃盗が多発しているのか?
理由は、いくつかの条件が重なったことによります。
具体的には、
- サンフランシスコの家賃の上昇が止まらず、ホームレスに転落する人が増えていた
- 2014年にカリフォルニア州の住民投票で可決された「提案47」によって、950ドル以下の窃盗については、軽犯罪に引き下げられた(すぐに釈放されるようになった)
- 2016年に可決された嗜好用の麻薬の取引が合法化されたことで、薬物利用のハードルが下がった
- さらに、フェンタニルという薬物の利用が増えたことで、重度の薬物中毒者が増加しやすくなった
- 2020年に起こった黒人差別に対する暴動(ブラック・ライブズ・マター)によって、警察予算が削減されて、軽犯罪の取締りが難しくなった
つまり、生活苦でホームレスになる人が増え続けていたところで、警察機能が低下し、窃盗やり放題、薬物やり放題になり、治安が悪化してしまったわけです。
1番目立つのは、サンフランシスコですが、窃盗・薬物使用の軽犯罪化は、カリフォルニア州全体の決定ですので、ロサンゼルスや、サンノゼなどのシリコンバレー・エリアにも、同じような影響が広がっています。
その結果、カリフォルニア州は、この2年間で1番人口が減少した州になってしまったわけですね。
ニューヨークやシカゴはどうなのか?
では、他の都市ではどうなのでしょうか?
窃盗を起訴しない(刑務所に入れない)ことで、犯罪数が増加
カリフォルニア州の提案47にあたるような法律は、探してみたものの、見当たりませんでした。
ですが、アメリカ国内では、新型コロナ以降、ロックダウンによって失業者が増えたこともあって、「生活必需品の窃盗については、検察は起訴をしない(刑務所に入れない、すぐに釈放する)」方針の市や郡が増えていたようです。
例えば、ニューヨーク州においても、1,000ドル以下の窃盗については、検察が起訴をしない方針としていたようです。
「現行犯で逮捕しても、マンハッタン地区検察が万引きを軽犯罪とみなして起訴しないから常習犯が盗みを繰り返す」。マンハッタンで勤務するニューヨーク市警察官はこう嘆く。同市警察(NYPD)によると、金額1000ドル以下の軽窃盗犯とよばれる犯罪の被害届は今年年初から9月中旬までに8万2000件と前年同期比約42%増えた。
一方で、マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は「ナイフや銃などの武器を持たない軽窃盗犯は起訴の対象にしない」としており、万引きの常習犯が増える原因と批判する市民も多い。
このような、貧困を理由とした窃盗に対して、起訴をしないという方針は、民主党の検事に多くみられるようです。
そして、カリフォルニア州、ニューヨーク、シカゴ(を含むクック郡)の検事の多くは、民主党なので、950〜1,000ドル以下の窃盗で刑務所に行くことはほとんどなく、小売業者への被害が拡大しているのが現状です。
例えば、シカゴでは、今年の4月に、ウォルマートが4店舗閉鎖すると発表しました。
窃盗被害が理由とは説明していませんが、サンフランシスコなどの例を考えると、その可能性は大きい思われます。
(参考:Walmart「Walmart Announces Closure of Four Chicago Stores」)
ニューヨークでは、オフィス需要が激減
ニューヨークにおいては、小売店の影響よりも、オフィス需要の激減による、オフィス価格の下落が大きいようです。
今年6月時点でのオフィスの空室率は、約23%ということですから、不動産価格もかなり下落しているものと考えられます。
(参考:ビジネスインサイダー「ニューヨークのオフィスビル、空室率23%。金利上昇、リモートワーク…貸すほど赤字で“ゾンビ”ビル増殖中」)
3、これからどうなるのか?
ニューヨーク州やカリフォルニア州、シカゴのあるイリノイ州などの、大都市のある州ほど、人口は減少傾向にありましたが、これからどうなるのでしょうか?
おそらくですが、この傾向はまだまだ当分続くと考えられます。
理由は2つあります。
- 大企業のリモートワークやリストラによる、オフィス削減の動きが止まっていない
- 窃盗や薬物使用の非犯罪化の動きは止まらない
からです。詳しく見ていきましょう。
(1)大企業のオフィス削減の動きが止まらない
主にカリフォルニア州で起こっていることですが、2023年に入っても、企業のオフィス削減の動きは止まる気配がありません。
株式市場に上場している大企業のオフィス削減例
企業名 | 業種 | 対象エリア | 内容 |
チャールズシュワブ | 証券会社 | カリフォルニア州サンフランシスコ | 旧本社のオフィスを閉鎖 |
アルファベット | Googleの親会社 | カリフォルニア州シリコンバレー | 13万㎡のオフィスを削減 |
エレクトロニックアーツ | ゲーム開発会社 | カリフォルニア州レッドウッドシティ | リストラとオフィス削減 |
インテル | 半導体 | カリフォルニア州サンノゼ | 約4.6万㎡の建物・土地を売却 |
セールスフォース | ソフトウェア | カリフォルニア州サンフランシスコ | 約1.2万㎡のオフィスを削減 |
(参考:build remote「Every Major Company Reducing Office Space: 2020-2023」)
Googleやインテルなどの、日本でも知名度の高い企業が、かなりの規模でオフィスを削減していることがわかります。
これによって、リストラが進むこともそうですが、リモートワークがさらに加速すると考えられます。そうすると、さらにカリフォルニアから移住する人が増えるでしょうから、人口減少が進む可能性が高いでしょう。
(2)窃盗や薬物使用の非犯罪化の動きは止まらない
2つ目が、窃盗や薬物使用の非犯罪化の動きです。
さきほど、民主党の検事ほど、窃盗や薬物使用者に対する起訴をしない傾向にあると解説しましたが、これには歴史的な経緯があります。
この辺についての実情は、ネットフリックス制作の映画「13th」に詳しく描かれています。
この映画は、「黒人差別が、アメリカでどのように行われてきたのか」を描いたものなのですが、
- 「黒人=犯罪者」のイメージを作り上げることで、多くの黒人を刑務所に送り込んできた
- その犯罪者を使って、実質的な奴隷労働をさせることで、刑務所・警察・司法が儲かる仕組みを作ってきた
ということが、南北戦争以降、100年以上も形を変えながら、続いてきた、という歴史が描かれています。
Youtubeでも見ることができて、日本語字幕もあります(ただし、暴力的な、ショッキングな映像がたくさんあるので、ご注意ください)。
このような歴史的な背景があるため、移民が多く、リベラルな思想を持つ人が多いカリフォルニア州やニューヨーク州では、刑務所の収容人数を減らすことや、軽犯罪の量刑を軽くすることなどが進められてきたのです。
これらの州で確かに治安は悪化しているものの、「人種差別を克服するためには、多少の犠牲は止むを得ない」と考えている人が、民主党には多いのでしょう。
しかし、ここ数年のアメリカは、フェンタニルという中毒性の強い麻薬が広がっていることで、薬物の過剰摂取による死者数が、全米レベルで急激に増加しています。
カリフォルニア州では、この2年で、ほぼ倍に増えていました。
(参考:CDC「Drug Overdose Mortality by State」)
そのため、かなりヤバイ状態のホームレスの方も増えていると考えられますので、窃盗や薬物中毒者を嫌気して移住する人は、今後も増えると予想されます。
ニューヨークでは、移民・難民が増えすぎて、キャパオーバーに
一方で、ニューヨークでは、メキシコ国境からテキサス州に入ってきた移民・難民が、ニューヨークにどんどん送ってこられてきています。
昨年の春から現在まで、約95,000人がニューヨークに来ているというのです。
そのため、ホテルや廃校となった学校、倉庫などを片っ端から活用しているのですが、それでも住居が足りず、ニューヨークの中心部の歩道で寝ている人たちもいるようです。
移民・難民の方は、経済破綻しているベネズエラや、治安が悪い中米諸国からの人が多いため、財産もほとんど持っておらず、仕事や生活の補償がなければ、犯罪に手を染めなければ生きていけません。
ところが、政府が住居すら手当てできないとなれば、犯罪へと走る人はさらに増えると考えられますので、治安のさらなる悪化が予想されます。
そうなると、ニューヨークから脱出する人は、今後も増えるでしょう。
移民・難民の方の分が増えるので、合計してみると、人口が増える可能性もありますが、もともといたニューヨーク市民の数は減っていきそうです。
コメント