この記事では、ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下「ディズニー」、ティッカー:DIS)の株価と業績について分析していきます。
このサイト「アセット&ライフ」では、日本で販売されている投資信託を中心に解説していますが、その中でもディズニー社は、投資信託の組入銘柄の上位に入ってくることが多いです。
ところが、ここ数年のディズニーの株価を見てみると、21年の最高値から約半値にまで落ちているのです。
同期間のS&P500指数(アメリカの日経平均のようなもの)と比べると、いかにディズニーの株価がおかしなことになっているかが分かるでしょう。
そこで、この記事では、なぜディズニーの株価が、これほど下落しているのか?そして、これからどうなるのか?について解説します。
1、ディズニーのビジネス内容と業績
(1)ディズニーとは、どんな企業なのか?
まずは、ディズニーの現在のビジネスについて、確認していきましょう。
ディズニーは、映画やディズニーランドの運営をイメージする人が多いと思いますが、それ以外にも、多くの企業を傘下に入れており、「メディア・コングロマリット」と呼ばれたりします。
日本で言えば、フジサンケイグループ(フジテレビ、産経新聞、スカパー、ニッポン放送、ヤクルトスワローズなど)のようなイメージです。
では、実際に、どんな企業を傘下に入れているのでしょうか?代表的な企業をまとめてみました。
企業名 | 内容 |
ABC | 日本で言うところの、日テレやフジテレビ |
20世紀スタジオ | 映画配給会社「21世紀FOX」 |
ピクサー | トイストーリーなどのCGアニメの映画製作会社 |
ルーカスフィルム | スターウォーズ、インディ・ジョーンズなどの映画製作会社 |
マーベルコミック | X-MEN、アベンジャーズ、スパイダーマンなどのコミックや映画を手がける |
Hulu | 日本でも展開している動画配信サービス |
映画の制作会社だけでなく、民放のテレビ局まで持っているんですね。さらに、動画配信サービス「Hulu」も傘下にあり、「Disney +」も運営しています。
アメリカに住んでいれば、ディズニー映画やディズニーランドが好きではない人でも、何らかの形でディズニーグループのサービスを利用しているレベルでしょう。
(2)ディズニーの業績の推移
このように、普通の日本人がイメージする以上に、大きな企業なのがディズニーです。
では、その業績はどうなのでしょうか?
ディズニー社の過去6年間の売上高と純利益を見てみると、新型コロナの感染拡大があった2020年に赤字になったものの、その後は売り上げが600億ドル→約900億ドルにまで伸びました。
1ドル=140円として、12兆円以上の売り上げなのです。相当すごいことがわかりますね。
しかし、売り上げの伸びに対して、利益は新型コロナ前の水準を回復できず、低迷しています。
といっても、2023年の純利益は、23.5億ドルなので、3,000億円以上の利益が出ているわけですが。
(3)ディズニーの業績が不振な理由は?
ディズニーのここ5年間の株価のピークは、2021年の1〜2月ごろです。
前年に新型コロナの感染拡大が起こって、外出や旅行が難しくなったのち、動画配信サービスやゲームなどの、家で楽しめるサービスを提供している企業の株価が大きく伸びました。
ディズニーもその波に乗ったわけですが、売り上げは伸びたものの、利益は伸びず、期待が外れた投資家が株を売って、現在では半値水準にまで落ち込んでいるわけです。
では、ディズニーの業績が振るわない原因はなんなのか?
それは、動画配信サービス「Disney +」の不振です。テレビのCMでけっこう流れてきますが、この事業が赤字だと言うんですね。
実際、ディズニーの大株主で、アクティビスト(大株主になって、経営に介入することで、業績を回復させ、リターンを得ようとする投資家)であるネルソン・ペルツ氏が、取締役になって介入しようとしています。
その具体的な内容が、「Disney +」や「Hulu」などの動画サービスの経費削減なのです。
(ペルツ氏は)業績停滞の要因として「規律のない支出」を挙げた。
ディズニーは2019年に約8兆円を投じて21世紀フォックスを買収したほか、インターネット動画配信事業を育てるためにコンテンツ製作への投資を年を追って積み増してきた。
(中略)
ペルツ氏が取締役に加わることで過剰な支出を見直し、「ディズニー+(プラス)」を中心とする動画配信事業の利益率を改善するという。
そこで、決算資料から、該当する項目を抽出してまとめたのがこちらです。
2019年10月以降のデータですが、たしかに「Disney +」が含まれる緑色棒グラフの部分がマイナスになっていることがわかります。
この部門が、3ヶ月で1,000億円規模の赤字を出し続けているため、利益が低迷したままなんですね。
(4)2023年は映画も赤字
また、Youtubeで映画のレビュー動画を見ていると、関連動画の中で、「新作のディズニー映画がひどい」みたいな内容の動画が出てきたりします。
上のグラフを見ると、確かに赤色の棒グラフの部分(映画・ライセンス収入の営業利益)が、2021年ごろからマイナスになっていることがわかります。
では、2023年のディズニーの映画は、どうだったのでしょうか?
この点について、詳しく解説されている動画があるので、興味のある方は、こちらをチェックしてみてください。
で、この動画で引用されていた記事を映画タイトル別にまとめたのが、こちらの表になります。
2023年のディズニー映画の興行収入と損益
*予算:広告宣伝費は含まれていないため、予算の50%程度を加えて総費用とする
*総売上高:全世界での売上。ディズニーの取り分は50%(映画館と折半)
*損益の計算式:(総売上高÷2)ー(予算×1.5)
(単位:億ドル)
タイトル | 米国の公開日 | 予算 | 総売上高 | 損益 |
アントマン&ワスプ:クアンとマニア | 23年2月 | 2.75 | 4.76 | -0.37 |
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3 | 23年5月 | 3.25 | 8.46 | +0.98 |
リトル・マーメイド | 23年5月 | 3.25 | 5.70 | -0.40 |
エレメンタル | 23年6月 | 2.50 | 4.97 | -0.015 |
インディ・ジョーンズ5 | 23年6月 | 3.50 | 3.84 | -1.58 |
ホーンテッド・マンション | 23年7月 | 2.00 | 1.18 | -1.41 |
ザ・マーベルズ* | 23年11月 | 2.75 | 2.50 | -1.50 |
ウィッシュ* | 23年11月 | 2.50 | 1.50 | -1.75 |
合計 | 22.50 | 32.91 | -6.045 |
*参考記事は、2023年11月27日時点のものであり、ザ・マーベルズ、ウィッシュの2作品の売上データは暫定のもの
なんと、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーを除いて、主要作品がすべて赤字でした。累計損失は、約6億ドル(約840億円)にもなります。
これほど、映画が赤字続きの理由は、「映画のクオリティが落ちている」「ヒーロー映画疲れ(飽きられてきた)」「続きものばかりで新鮮味がない」などの意見が主なものです。
ディズニーも70〜80年代には、アニメーション部門が低迷していた時期がありました。
映画やアニメ、ゲームなどのコンテンツには流行り廃りがつきものですので、今がディズニーにとって、そういう時期なのかもしれません。
2、ディズニーは復活するのか?
ここまで、ディズニーの株価の低迷している理由を、業績を見ていきながら確認してきました。
では、ディズニーは、そしてディズニーの株価は、これから復活するのでしょうか?
それが分かれば、誰も投資で苦労はしないわけですが、最低限必要なことは、「Disney +」の収支改善でしょう。
(1)Disney + の会員数は、そろそろピークか?
というのも、すでに「Disney +」の会員数は全世界で1億6,000万人を超えており、1位のネットフリックスの約2億5,000万人、アマゾンプライムの1億7,500万人に次いで、3位の水準にまできて、もう伸び代がないと思われているからです。
サービス名 | 会員数 |
ネットフリックス | 2億4,720万人 |
Amazonプライム・ビデオ | 1億7,500万人 |
Disney + | 1億5,780万人 |
今のところ、「Disney +」の会員数は、増加傾向にありますが、Huluは、ほぼ頭打ちとなっています。
また、インドで展開している「Disney + Hotsta」は、インドで人気競技であるクリケットの試合の放映をやめたことで、会員数が激減しています。
さらに、業界1位のネットフリックスの会員数も2022年に減少に転じて、頭打ちとなりました。定額動画配信サービスの会員数が、劇的に増加する見込みも少なくなってきています。
そうなると、会員数の増加で売上増加を目指すことは難しく、値段を上げるか、経費を削るしかありません。
実際、ディズニーでは、2023年に「Disney+」部門の社員を7,000人リストラしました。
経費削減の一環ということですが、それでも赤字がまだ続いているようなので、さらなるリストラが必要となるでしょう。
(2)【最悪のリスク】アメリカの分断がさらに進んで、「普通のお客さん」が離れること
ディズニーは、映画や動画サービスだけの会社ではなく、ディズニーランドやクルーズ船、ABCなどの民放放送局の運営も行っているので、「Disney +」が赤字だとしても、他で十分に補える会社ではあります。
ですが、ディズニー関連のニュースをいろいろと調べていくと、特にアメリカ国内において、ディズニーは「普通のお客さん」が離れるリスクが増えています。
リベラルに配慮しすぎて、作品の質が低下→ファンが離れる
日本でも昨年、LGBT(性的少数者)法案が可決されましたが、先進国を中心に、性別・人種的な少数者に対して、配慮をしようという流れがあります。
もっともわかりやすい例が、アカデミー賞の選考基準でしょう。
2024年以降、アカデミー賞に先行されるためには、以下のような基準のいくつかを満たさなければいけないのです。
- 主演または助演の女優・俳優が、黒人やラテン系などのマイノリティを採用すること
- ストーリーのテーマについて、女性やLGBTQ、障害者、少数民族などを採用すること
- 製作部門の各責任者について、女性やLGBTQ、障害者、少数民族などを採用すること
これ以外にも、いろいろな基準があり、すべてを満たす必要はありませんが、いろいろと配慮をしなければいけなくなります。
ディズニーに限らず、ハリウッド自体が、人権意識の高いリベラルな価値観で映画を製作しているため、このような基準が作られたのでしょう。
これだけを見ると、「ふーん」と思うだけかもしれませんが、これらの条件を「絶対に」加えなければいけないとなると、おかしなことになります。
例えば、2022年に公開された映画「ストレンジワールド」では、主人公は白人、妻は黒人、息子はハーフで同性愛者、飼い犬は片足がない、といった、上記のアカデミー賞の選考基準を全部盛り込んだような設定の映画です。
ところが、それらの設定が、物語になんの関係もないということで、「とってつけたような設定の映画」との酷評が多く、売り上げも散々な結果に終わってしまいました。
このような映画を作り続けてきた結果が、2023年のディズニー映画が1本を除いて赤字、という状況なのかもしれません。
そうだとすると、ディズニー映画からファンが離れている可能性もあり、今後の「Disney +」の会員数の減少や、ディズニーランドの入場者数の減少などに広がってくるかもしれません。
まとめ
というわけで、ディズニーの業績と現状について、解説しました。
アメリカの株式市場は、現在好調ではありますが、個別の企業を見ていくと、日本でも有名な大企業であっても、大きく下落しているケースも散見されます。
そして、おそらくですが、今後はこのような企業が増えていくと考えられます。
というのも、今のアメリカは、共和党と民主党との間で分断が激しく、多くの大企業が民主党寄りの価値観を持っているため、共和党の中の「普通の人たち」の感覚に合わず、購買をボイコットする動きが出ているからです。
例えば、アメリカでもっとも売れていたビール「バドライト」が、広告にトランスジェンダーの人を起用したことがきっかけで、それまでバドライトを愛飲していた「普通の人たち」がボイコットをしてしまい、売り上げが2割減ってしまった、なんて話も出てきています。
(参考記事:日経新聞「米ビール市場、バドライト首位陥落 広告巡り不買運動」)
バドライトの親会社であるAB inBevの株価も、一時はこの騒動で2割近く下落しました。
「普通の人たち」のボイコットが、業績や株価にも影響を与えるようになっているのです。そのため、アメリカ市場が好調だからと、名前だけのイメージで投資をするのは注意したほうがいいでしょう。
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