大企業が相次ぎ撤退?サンフランシスコで何が起こっているのか?

サンフランシスコの街並み コラム

この記事では、サンフランシスコで何が起こっているのか?について、解説していきます。

 

今、Youtubeで「サンフランシスコ」で検索すると、かなりヤバそうな動画がたくさん出てきています。

その中でも気になるのが、

  • ダウンタウンで、有名店舗が相次いで閉店
  • 大企業が相次いで撤退

といった内容のものです。

 

このサイト「アセット&ライフ」では、投資信託などの金融商品の分析・解説をしていますが、その中の1つとして、アメリカの不動産市場へ投資するREITという商品があります。

サンフランシスコのこのような現状は、間違いなく不動産市場の下落にもつながっているはずです。

 

問題は、このような現象が、サンフランシスコだけのものなのか?ということです。

もし、これから、他のエリアでも起こるのであれば、日本の投資家にも大きく影響が出てくるでしょう。

 

そこで、この記事では、サンフランシスコで、

  1. どの程度、大企業の撤退、店舗の閉店が起こっているのか?
  2. なぜ、撤退・閉店が起こっているのか?
  3. 他のエリアでも起こるのか?(すでに起こっているのか?)
  4. 日本の投資商品への影響

の4点について、解説していきます。

 

1、サンフランシスコで、何が起こっているのか?

(1)サンフランシスコの立地・人口

まずは、サンフランシスコの位置や人口などの、基本的な情報を見てみましょう。

サンフランシスコは、アメリカ西海岸のカリフォルニア州の中にある街です。

 

最近は、ハイテク企業が集積する、「シリコンバレー」と呼ばれるエリアの一部となっています。

そして、家賃の高さも全米屈指の街として知られていました。

 

アメリカ西海岸の主要都市

 

では、その人口はどの程度なのでしょうか?

2022年のサンフランシスコの人口は、80.8万人で、新型コロナが起こる前の2019年には約88万人いましたので、この2年間で7万人の減少となっています。

 

サンフランシスコの人口推移

(参考:U.S. Census Bureau)

 

新型コロナの感染拡大で、リモートワークを採用する企業が増えました。

サンフランシスコ市は、特に家賃が高いこともあって、自宅で仕事ができるのであれば、もっと安いエリアに引っ越したいという人も増えたのでしょう。

その結果、人口が約7万人減った、というわけです。

 

ただし、東京23区でも、2021年は転出超過(区外に出ていく人の方が、引っ越してくる人よりも多い状況)になっていましたので、これはサンフランシスコに限ったことではありません。

 

(2)サンフランシスコから撤退した企業

ここからが、サンフランシスコがヤバイ状況の紹介になります。

サンフランシスコは、周辺のサンノゼやクパチーノなどを含めて「シリコンバレー」と呼ばれるエリアであり、日本でも有名なハイテク企業(Googleやアップルなど)の多くが、このエリアに集積しています。

 

そして、昨年あたりから、これらのハイテク企業の多くが、リストラを開始し、従業員の解雇、オフィスの縮小を発表しています。

では、具体的に、どのようなものなのか?

日本でも知られている大企業の、オフィス縮小については、以下の通りです。

 

①主な大企業のオフィス撤退事例

企業名 内容
META(Facebookの運営企業) 43.5万平方フィート(約4万㎡)をサブリース(自社では使わず、契約期間満了の2031年まで転貸)
Uber(ウーバーイーツの運営企業) 25万平方フィート(約2.3万㎡)をサブリース
Airbnb(エアービーアンドビー) 60万平方フィート(約5.6万㎡)をサブリース
salesforce 本社ビル「salesforce tower」を含む、70.9万平方フィート(約6.6万㎡)をサブリース

 

面積がイマイチ、ピンとこないかもしれませんが、一般的なイオンモールの広さが、だいたい4〜6万㎡です。

 

なので、META、Airbnb、salesforceの3社が、だいたいこれぐらいの規模です。

人口80万人ぐらいの街で、イオンモールレベルの広さのオフィスが3店舗分、空き家になったというイメージですね。

 

上の表は、英語の記事で調べられたニュース記事ですから、中小・ベンチャー企業を含めれば、もっと多いでしょう。

実際、サンフランシスコのオフィス空室率は、2023年3月時点で26%にもなっているそうです。

(参考:大和総研「経済再開後も高まり続けるサンフランシスコのオフィス空室率」)

 

②主な店舗の撤退事例

問題はオフィスだけではありません。

企業が撤退したことで、百貨店やスーパー、飲食店、銀行などでも、売り上げ減少の影響が出ており、相次いで閉店が起こっています。

 

店舗名 内容
ノードストローム(百貨店) ダウンタウンの店舗を閉店。31.2万平方フィート(約2.9万㎡)
ウェストフィールド(ショッピングモール) 閉店。借金が返せないため、物件をそのまま債権者に譲渡して精算
ホールフーズ(高級スーパー) オープン13ヶ月後に閉店
その他、有名ブランドの店舗 「アバクロンビー&フィッチ」「H&M」「ギャップ」など

 

こちらは、サンフランシスコのダウンタウンのお店が、ほとんどすべて閉店している、という模様を写した動画になります。

 

 

日本の地方都市のシャッター商店街のような状況です。

 

2、何が起こっているのか?

サンフランシスコは、有名ハイテク企業が集積していることから、2019年時点で平均年収が1,330万円と、かなり高い人気都市でした。

そのため、高級スーパーや高級ブランドも多く出店しており、かなり賑わいのある街だったわけですが、今では見る姿もありません。何が起こったのでしょうか?

 

一般的には、

  • 新型コロナでビジネス環境が大きく変わったため、大規模なリストラを行うハイテク企業が相次いだ
  • リモートワークが広まったため、家賃が高いサンフランシスコから出ていく労働者が増えた

という説明がなされます。

 

ですが、この説明には、かなり違和感があります。

例えば、

  • セールスフォースの決算は、新型コロナ以降も黒字であり、いくら事業環境が大きく変わったとしても、本社ビルを転貸に回すほど苦しくない
  • 大手ハイテク企業が撤退したからといって、まだ80万人以上も人口がある都市なのに、百貨店や高級スーパーなど、多くの商業店舗が軒並み閉店するのはおかしい

と、普通に考えたら、思うはずですよね。

 

もっと別の、そして切実な理由があると考えるのが自然です。

では、それは何なのか?

おそらく、その理由は、「薬物中毒者のホームレスが、これらのエリアにあふれて、やりたい放題しているため」でしょう。

 

これについては、日本語の記事がいくつかありましたので、その一部を引用してご紹介します。

 

地元紙が「ドラッグ使用や犯罪で路上の環境が崩壊していることが店舗を閉鎖に追い込んだ」と報じている。

(中略)

カリフォルニア州は950ドル以下、ニューヨーク州は1000ドル以下の万引きを軽犯罪としており、現行犯でないと逮捕しない、捜査もしない、起訴もしないとされ、そのため常習犯が盗みを繰り返すと言われている。

(参考:アメリカの繁華街で深刻化する「閉店ラッシュ」と「治安悪化」【鈴木敏仁USリポート】)

 

なんと、アメリカの一部の州では、警察官が足りないこともあって、950〜1,000ドル(約13〜14万円)の万引きであれば、軽犯罪となって、逮捕されないというのです。

また、薬物の使用についても、軽犯罪に引き下げられたため、捕まる心配がほとんどなくなり、薬物犯罪が増えているそうです。

これは、2014年にカリフォルニア州の住民投票で、「提案47 安全な近隣と学校法」という法律が可決されたことを受けてのことです。

 

そして、新型コロナの感染拡大で失業者が増えた2020年以降、さらに万引きがひどくなっているわけです。

 

米国を代表する高級スーパーのWhole Foodsは2022年3月に、ユニオン・スクエア近くに旗艦店をオープンした。近くにはハイテク産業で働く高所得層が多く住む。新店には新型コロナ後のリバウンド需要を獲得する狙いがあった。ところが開店直後から、店内では想像を絶する混乱が続いた。

店舗を訪れた男たちが従業員を銃やナイフなどで脅し、騒ぎながら商品を奪って床にまき散らすことが日常的にあった。店内でのけんかは当たり前。食品棚の前の床に糞尿をしようとする男たちもいた。店舗のガードマンをナイフで襲った男が、その後、従業員に向けて消火器を噴霧したこともあった。

(参考:日刊サイゾー「世界が滅亡した後のようだ」イーロン・マスクも嘆く米サンフランシスコの荒廃)

 

完全にリアル「北斗の拳」のような世界になっているようです。

 

なぜ、警察は何もしないのか?

ですが、ここまで大変なことになっているのに、なぜ警察は逮捕したりしないのでしょうか?

その理由は、捕まえても、刑務所に空きがないからです。

 

カリフォルニア州では、人口が増加傾向にあるにもかかわらず、刑務所を減らしたりして、受刑者の数を減らし続けています。

 

カリフォルニア州の総人口と受刑者数の推移

(参考:U.S. Department of Justice「prisoners in 2021」)

 

アメリカでは、歴史的に人種差別がなかなか解消されず、特に警察による逮捕や量刑が、人種によって異なるというような、司法の不平等が社会問題となっていました。

例えば、1992年にロサンゼルス暴動が起こりましたが、これは警官が黒人を痛めつけている映像が撮影されたことがきっかけです。

 

このような歴史的な背景があったため、刑務所の収容人数を減らすことや、軽犯罪の量刑を軽くすることなどが進められてきたのです。

 

さらに、2020年に黒人男性が白人の警察官に拘束・殺害されたことで、全米各地で暴動が起こりました。ブラック・ライブズ・マター(BLM)と呼ばれます。

これによって、多くの街で、警察予算の削減が行われ、警官の数が減ってしまったのです。

その結果なのか、2020年以降、窃盗(赤色の線)の件数が大きく減少しています。同じ期間に不法侵入件数(緑色の線)が増えているため、新型コロナで犯罪が減ったわけではありません。

 

サンフランシスコの犯罪件数

(参考:SAN FRANCISCO POLICE DEPARTMENT) 

 

犯罪件数のカウントは、被害者による報告がなければ事件になりません。

警察予算の削減で、警察官の数が減っている中では、被害者の命の危険が伴う、重犯罪への対応で手一杯になってしまいます。

しかも、950ドル以下の窃盗被害であれば、軽犯罪になってすぐに釈放されてしまうため、被害者の側も「警察に報告しても、何も変わらない」とあきらめてしまっているのが現状です。

 

これは、言い換えれば、万引き犯はいくら万引きをしても、警察が来ないので、やりたい放題になったとも言えます。

 

アメリカには、「三振法」と呼ばれる、重犯罪を何度も繰り返した場合に、無期懲役になってしまう法律があります。

ですが、950ドル以下の窃盗は軽犯罪になったため、何度も犯罪を繰り返しても、捕まることもなくなっているため、犯罪者の側でもどんどんエスカレートして、ついには犯罪組織が白昼堂々とお店に入って窃盗を行うようになっています。

 

その結果、毎日のように被害にあう店が増えてしまったため、相次いで閉店が進んでしまったわけです。

 

3、他のエリアでは、どうなのか?

このような状況は、サンフランシスコに限りません。

 

特に950ドル以下の窃盗については、軽犯罪になってしまうのは、カリフォルニア州全域です。

つまり、サンフランシスコを含めた「シリコンバレー」や、全米第二の都市であるロサンゼルス、富裕層に人気のサンディエゴなどもそうなのです。

 

そのため、2020年以降に、大企業のカリフォルニア州からの本社移転が、かなり目立つようになりました。

 

株式市場に上場している企業の本社移転ケース(2020〜23)

企業名 業種 本社移転先
Gen Digital セキュリティソフト「Norton」の親会社 アリゾナ州テンペ
ASGN ソフトウェア開発 バージニア州グレンアレン
Palantir ビッグデータ解析 コロラド州デンバー
CBRE 不動産大手 テキサス州ダラス
HP デジタル機器「ヒューレット・パッカード」 テキサス州ヒューストン
ORACLE ビジネス用ソフトウェア「オラクル」 テキサス州オースティン
Charles Schwab ネット証券 テキサス州ウェストレイク
Digital Realty Trust データセンター運営 テキサス州オースティン
Align Technologies 3Dデジタルスキャナー アリゾナ州テンペ
Viavi Solutions ネットワーク保守・点検 アリゾナ州チャンドラー
Snowflake クラウドサービス モンタナ州ボーズマン
Kaiser Alminium アルミ製造 テネシー州フランクリン
AECOM 総合エンジニアリング テキサス州ダラス
Tesla 電気自動車「テスラ」 テキサス州オースティン
FICO クレジットスコア運営 モンタナ州ボーズマン
Marrone Bio Innovation バイオ農産物 ノースカロライナ州ローリー
Chevron 石油製品「シェブロン」ブランド テキサス州ヒューストン
Trimble ソフトウェア開発 コロラド州ウェストミンスター
Landsea homes 住宅メーカー テキサス州ダラス

(参考:build remote「Every Company Leaving California: 2020-2023」)

 

日本では、テスラやヒューレット・パッカード、オラクルあたりの移転が話題となっていましたが、それ以外にもかなりあるのです。

 

また、新型コロナでリモートワークできる企業が増えたため、本社の移転が進んでいると説明されがちです。

しかし、もう少し詳しく見てみると、IT系の企業に限らず、不動産、石油、アルミ製造など、幅広い分野の企業が、カリフォルニア州から脱出していることがわかります。

 

4、日本の投資信託への影響は?

現在、アメリカの株式市場は、堅調に推移していますが、一方で、カリフォルニア州で起こっている状況は、社会の崩壊を予感させます。

このような状況がさらに進むのであれば、日本で取り扱われている投資信託にも、影響が出てくる可能性は十分にあるでしょう。

 

では、特に何が危ないのか?

個人的な考えになりますが、

  • 商業施設、ホテル、オフィスなどの、都市の中心部で商売をする企業の株式やREIT
  • カリフォルニア州を商圏にしている企業

は、今後、店舗の閉店や撤退が起こるのではないかと予想します。

 

そのため、これらをテーマにした投資信託をお持ちの方(特にREIT系の投信)は、カリフォルニア州の今後の状況に注意を払っておいた方がいいでしょう。

 

コメント

  1. Moraikaze より:

    今まさにこの街に住んでいる者ですが、確かにダウンタウンの一部は以前に比べると更にホームレスが増え盗みなども増加しています。
    数ヶ月前にはよく買い物に行く日本街モール内でガードマンが射殺されたり、又同じ場所では僕の停めた車の真後ろの車が車上荒らしに会うのを目撃した事も有ります。
    しかしながらこの街そしてこの国はその様な事は昔から日常茶飯事で、僕が来た今から50年程前からは最近若干増えたかな位しか感じません。
    実際に僕も来たその年1972年に日本街でバイクを盗まれたり35年前にはアパートのガレージより自転車の盗難、更に10年程前にこれまた日本街で車上荒らしに会い又最近は2度ほどグループで商店を襲う者達と遭遇しています。
    1度目はガードマンを助け一人の男を捕まえようとしましたが相手が大男で突き飛ばされた次第です、後店の人及び警察官から貴方の行動は正しいが怪我などするといけないので、次回より心する様にとの言葉、従って2度目は見守っていましたね。
    僕だけがこの様な経験してる訳では無いでしょう、こちらに住んでいると少なからず似た様なもの経験をしてる筈です、大体にしてこの国の成り立ちは力と正義に名を借りた暴力で人々を抑えてきた時代が存在してます、その煽りが今少しずつ噴き出し始めているのかも知れません。
    僕が来た50年程前はダウンタウン今コンベンションセンターのある辺りは廃ビルが建ち並びホームレス達が夕方辺りから集まりだして焚き火をしてたりしてました。
    そんな訳ですから今はこの様な状態でもまた少しづつ持ち直し良くなりそして、、と繰り返していく事とでしょう、今はこの様な状態でもいつの日か必ずや時間が解決してくれる事と思います。

    • alberco より:

      現地から、貴重なお話をいただきまして、ありがとうございます。
      50年という長いご経験から見ると、「いつか見た景色」のように見えるのですね。

      このブログを書くことをきっかけにして、カリフォルニアやNY、そしてアメリカ全体の経済や社会について調べるようになり、驚きの連続です。
      今のアメリカ(特に民主党の移民政策)が、これからどのようなプロセスを経て、安定へ向かうのか、引き続きウォッチしていきたいと思っております。

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