昨年11月にアルゼンチンの大統領選挙で、ハビエル・ミレイ氏が勝利しました。
ミレイ氏は、公約として、「中央銀行を廃止する」「ペソをやめてアメリカドルにする」「政府の省庁を18から6つに削減する」などといった、かなり過激な発言をして、世界中で話題となりました。
あまりに、過激な発言が多かったため、「本当に運営できるの?」「失敗してしまうのでは?」といった評価が多かったように思います。
この記事を書いているのは、2024年2月時点ですが、12月10日に大統領に就任して、約2ヶ月が経ちました。その間に起こったことについて、まとめていきたいと思います。
2024年1月の財政収支が黒字に
まず、最近の大きなニュースとして取り上げられているのが、アルゼンチンの財政収支が、2024年1月単月で黒字になったということです。
(参考:Yahoo news US *英語記事「アルゼンチンの財政は1月に5億8,900万ドルの黒字となり黒字に戻った」)
ほぼ12年ぶりの黒字ということですから、かなりの快挙のように見えますが、そこではかなり劇的な改革がされた結果でした。
実際、副作用はかなり大きかったようです。
貧困率は、昨年末の49.5%から57.4%に跳ね上がっています。
そして、1月のインフレ率はなんと年率254%と、ミレイ氏が就任する前の11月の年率160.9%から、さらに大きく上昇しています。
(参考:産経新聞「1月のインフレ率254% 経済危機のアルゼンチン 世界最高水準」)
大統領就任後に、何をしたのか?
12月12日に、財務大臣が財政の再建策について発表したのですが、その内容が予想通り?かなりショッキングでした。
「選挙前には、いい話をして国民に期待を持たせて、実際に就任すると、反対する人が多いために、何もできない」みたいな政治家のイメージを持っていた人もいたかもしれませんが、本当にやってしまいました。
具体的には、
- 18あった省庁を9つに削減。事務局も106から54に削減
- 新規の公共事業の入札停止
- エネルギー、公共交通の補助金を削減
- 為替レートを1ドル=366ペソを800ペソに引き上げ
などでした。
(参考:infobase *スペイン語記事「(財務大臣の)ルイス・カプート氏、チェーンソー計画の最初の措置を発表:公定ドルは800ペソとされる」)
特に、政府官庁のリストラは凄まじいですね。
ちなみに、こちらの動画は、大統領就任前のテレビでの討論番組です。政府の中で、いらない省庁をミレイ氏がマジックで塗りつぶしています。日本語字幕でも、何となく理解できると思います。
この動画で、いらないと、バッサリ切っている省庁は、
- スポーツ観光省
- 交通省(もう十分整備されている)
- 労働省(未成年の教育制度を優先)
- 保健省
- 公共事業省(民間に任せる。無駄な施設はいらない)
- 女性省(法の平等に反する。フェミニストのゴリ押しで、むしろ不平等になった)
- 教育省(クーポンを配布して、家族や本人に好きな学校を選ばせればいい)
- 国土開発省
- 社会福祉省
- 文化省
- 科学技術省
- 環境省
でした。18省庁中12省庁です。
かなり興味深いですね。実際、これらの省庁は、無くなったり、一部機能が新しい省庁に統合されました。
その結果、残った、または統合された結果、
- 財務省
- インフラ省
- 人的資本省(教育・幼児教育・家族教育・労働安全衛生)
- 保健省
- 外務省
- 警察省
- 防衛省
- 内務省
- 法務省
の9省庁となりました。
これによって、政府の予算がかなり削減されました。1ヶ月で財政が黒字化したのは、政府の支出を思いっきり削減した結果というわけです。
ミレイ氏は、なぜこんなことをしているのか?
上にご紹介した動画で、ミレイ氏は、「国民に魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えるべきだ」と語っています。
そのため、政府による規制や、補助金は、極力排除することで、無駄な支出を減らし、生産する側(国内の物を豊かにし、海外へ輸出して外貨を稼ぐ=他の国の優れた物を輸入して、さらに豊かになる)ということなのでしょう。
図にすると、こんなイメージだと思います。
結局、アルゼンチンがずっとインフレに悩まされているのは、海外に輸出できるほどの、魅力的な商品(農業、工業製品、サービス)が少ないためです。だから、貿易赤字になって、海外からお金を借りても返せないのです。
そうであるならば、もっと生産者を増やせばいい。もっといい商品を作ろうとする、生産者を育てればいい。補助金に依存させると、生産者も工夫をせずに楽をしてしまう。だから、そんな補助金は廃止だ。
いくつかの動画を見て、ざっくりそのように解釈しました。
インフレ率のさらなる上昇は、計算済み
2024年2月現在、インフレ率はさらに上昇して、手に負えない状況のように見えますが、これは今回の通貨切り下げに伴うもので、政府としても予想通りと考えていると思われます。
日本でも円安になると、輸入品の物価は上がりますが、トヨタやソニーなどの、海外で稼いでいる企業の売り上げはさらに上がります。
アルゼンチンは、世界有数の農業国なので、現在の安い為替レートで農産物を輸出すれば、外貨を稼げますし、生産に貢献しない公務員がリストラされれば、輸入するものが減って、貿易収支も黒字に転換しやすくなります。
それで困るのは、年金生活者やリストラされる公務員などですが、ようするに「海外の商品が欲しいのなら、あなた方も海外に売れる商品やサービスを作ってください」というメッセージなのでしょう。
そういう意味では、多くの人が、「企業や国に頼らずに、自分の力でお金を稼がないといけない」というバトルロイヤル・モードに入った状況なのかもしれません。
それにいち早く適応できる人は、何とかなるかもしれませんが、適応できない人は、貧困の淵で彷徨うことになるのではないでしょうか。
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