2024年のアメリカ経済と株価を予想|懸念される3つのポイント

アメリカ経済・社会

このサイト「アセットアンドライフ」では、これまでアメリカの大都市のやばい状況について、詳しく解説してきました。

このような記事を書くために、いろいろなデータやニュースを調べてきたわけですが、アメリカ社会がかなりやばい状況にあることがわかりました。

 

その一方で、日本の新聞やテレビ、経済誌などでは、「アメリカの経済は強い」「今はちょっと金利を上げすぎて大変だけど、いずれ回復する」といった感じのコメントが大半を占めています。

実際、アメリカの株式市場はかなり好調です。

なので、特にアメリカの株式や投信などに投資をしている人は、「どっちが本当なの?」と思ってしまいますよね。

 

そこで、この記事では、

  1. アメリカ経済が今どうなっているのか?についての検証
  2. 今後の懸念点
  3. 2024年の投資にどう向き合うべきか?

の3点について解説します。

 

1、アメリカ経済は、本当に調子がいいのか?

まず、足元のアメリカ経済の状況を確認してみましょう。

最近の日経新聞の記事によると、アメリカの実質GDP成長率は、7−9月期で+4.9%(前年同期比)と、かなり高い成長率となっていました。

 

GDPの7割を占める個人消費は4.0%増だった。

飲食や夏場のレジャー消費が好調で、伸びは4〜6月期の0.8%増から拡大した。金利上昇で住宅などローンの利払いは重くなっているものの、消費全体の勢いは衰えていない。

(参考:日経新聞「米GDP、7〜9月4.9%増に加速 利上げでも消費衰えず」)

 

ところが、専門家は、昨年から急激に引き上がった金利の影響で、景気は落ち込むと予想していたのです。

 

エコノミストらは1年ほど前には米経済が2023年内にも景気後退に入ると予想していた。実際には22年3月のゼロ金利解除から1年半が経過しても勢いが弱まらなかった。

(参考:同上)

 

専門家が、景気後退を予想した理由は、政策金利の引き上げです

アメリカの中央銀行であるFRBは、物価上昇を抑えるために、金利を引き上げることで、住宅ローンやクレジットカードなどの借金をしにくくすることで、消費を抑えようとしました。

 

アメリカの政策金利と実質GDP成長率

(参考:みんかぶ「アメリカ・実質GDP」外為どっとコム「政策金利」

 

では、なぜ個人消費が盛り上がったのでしょうか?

まずは、具体的に、どんな支出が増えたのか?を見てみましょう。

 

アメリカの名目GDPの内訳

(参考:米国商務省 経済分析局)

 

アメリカの個人消費は、GDPの約7割を占めています。

上の表は、個人消費の合計額と、特に増加(または減少)していた項目をピックアップしたものです。これらの項目を足すと、全体の約5割となるので、だいたいの傾向がわかると思います。

 

赤色の数字が、特に上昇率が高いものです。

新車やスマホなどの情報端末などの売り上げが増えていることがわかります。このような商品の需要が増えていると、個人消費が盛り上がっている、というイメージにつながりやすいでしょう。

 

ですが、そのような項目は案外少なく、医療費や介護費用、家賃などの、避けられない支出項目で、前年同期比で7〜10%の増加をしていることがわかります。

 

このような事情は、個人ローンにも現れています。

 

米国の個人ローンの残高

(参考:FRB of NY

 

自宅を担保にお金を借りる不動産担保ローンの残高は、ほぼ横ばいなのに、金利が20%も超えているカードローンの残高は、どんどん増えています。

 

堅調とされる米国の個人消費に変調の兆しが出てきた。7〜9月にクレジットカードの支払いができずに延滞した割合は8.01%と、2011年以来12年ぶりの高水準となった。

(中略)

米連邦準備理事会(FRB)によると、8月時点でカードローン金利は年率21.19%と過去最高になっている。

(参考:日経新聞「米国のカード延滞率、12年ぶり高水準 金利高が消費に影」)

 

個人消費の中で、家賃や医療費などの支出が急増していることを見てきました。

特に家賃を延滞すると、アメリカでは強制退去が合法なので、ホームレスに転落する可能性もありますから、高い金利でも借りて支払うしかない状況なのです。

 

実質賃金も下がっている

また、労働者の給料も低下しています。

新型コロナの感染拡大時に、人手不足になり、給料が跳ね上がりましたが、その後は大きく下落しています。

 

アメリカの実質賃金

(参考:FRB of St.Louis)

 

このような状況を見ると、平均的なアメリカ人にとっては、決して給料が上がったために、個人消費が旺盛になっているわけではないのでしょう。

家賃や医療費などの避けられない出費が増えたことで、借金をしてでも支払わなければいけない人が増えた結果、GDPが大きく上昇していると考えた方が自然だと思われます。

 

2、アメリカが抱える3つの不安要素

ここまで、「アメリカの景気が決して良いわけではない」という可能性について検証してきましたが、これからアメリカで懸念される点について、解説します。

 

(1)アメリカの借金が大変なことになっている

アメリカでは、政府の債務が急激に増加しています。

新型コロナの混乱が起こる前の2020年1月時点では、約23兆ドル(約3,350兆円)だった政府の借金が、2023年11月時点では約33兆ドル(約4,950兆円)にまで膨らんでいるのです。

たったの4年弱で、10兆ドル(1,500兆円)も増やしたことになります。

 

アメリカの政府債務と支払い利息

(参考:米国財務省「Fiscal data」)

 

しかも、この間に金利を引き上げたため、毎年の利払い額も急激に増えており、1年で1兆ドル(約150兆円)も支払わなければいけない状況になっています。

 

なお、アメリカの2024年度(2023年10月〜24年9月)の政府予算は、歳入が5兆360億ドル、歳出が6兆8,830億ドルで、1兆8,460億ドル(約277兆円)の赤字です。

この赤字の中には、利払い費用も含まれていますが、想定の利払いは7,960億ドルであり、現在の約1兆ドルにあと約2,000億ドル(30兆円)足りません。

(参考:ホワイトハウス「2024年度予算」PDF)

 

ちなみに、現在の利払いのための平均金利は約3%ですが、長期・短期金利ともに4〜5%になっていますので、満期が来るたびに、借り換える際の金利が上がります。

そのため、利払い額は、これからもっと上がっていくことになります。

 

(2)長短金利が逆転している

新型コロナ、ロシアのウクライナ侵攻などの影響もあって、世界的にインフレが止まらず、アメリカの中央銀行であるFRBは、インフレを抑えるために政策金利を一気に引き上げました。

これによって、アメリカの金利は急激に上昇してきたわけですが、現在、米国債の金利は、10年債よりも3ヶ月債の方が高くなっています。

 

米国債10年と財務省短期証券の金利

(参考:FRB of St.Louis)

 

普通に考えると、期間が短い借金は、期間が長い借金よりも、金利が低くなると思いますよね。

例えば、日本の国債であれば、期間10年の金利は0.8%前後ですが、期間2年のものは、0.1%前後となっています。

 

ところが、現在のアメリカの金利はそうなっていないのです。

このような現象は「逆イールド」と呼ばれており、景気後退や株価下落のシグナルと見られています。

 

逆イールドとは、短期金利が長期金利の水準を上回る状態(長短金利の逆転現象)を指します。

一般的に、過度な金融不安や過激な政策変動により短期金利が急騰したことで生じるために、その発生後は景気後退が訪れるケースや株価が調整に転じるシグナルとされています。

(参考:SMBC日興証券 用語集「逆イールド」)

 

実際に、株価と逆イールドの時期を調べた結果がこちらです。

 

S&P500指数と逆イールド

(参考:FRB of St.LouisYahoo finance (US)

 

2008年に起こったリーマンショックの前年と、ITバブルがピークを売った頃に出ていました。

また、株価だけをみれば、今回は何も起こっていないように見えますが、今年の3月にはシリコンバレー銀行が、5月にはファーストリパブリック銀行が破綻しました。

いずれも、アメリカ史上2番目、3番目に大きな銀行の破綻です。

 

なので、逆イールドの影響は、今回も出ているわけです。

そして、今回の逆イールドは、期間の長さ、金利差の大きさ、のどちらを見ても、ここ30年ぐらいでは見たことのないレベルです。

 

そのため、「これから何も起こらない」という可能性は低いのではないでしょうか。

 

(3)アメリカの銀行倒産が増える可能性

今年の3月にアメリカのシリコンバレー銀行が破綻したというニュースが出て以降、アメリカだけでなく、欧州においても、大手の金融機関の経営破綻が相次いで起こっています。

 

銀行名 所在国 破綻日(2023年) 総資産(概算)
シルバーゲート銀行 アメリカ 3月8日 1.6兆円
シリコンバレー銀行 アメリカ 3月10日 28兆円
シグネチャー銀行 アメリカ 3月12日 14兆円
クレディ・スイス銀行  スイス 3月20日 80兆円
ファーストリパブリック銀行 アメリカ 5月1日 31兆円

 

その後は落ち着きを見せていますが、これで本当に銀行危機は去ったのでしょうか?

アメリカの中央銀行であるFRBは、今年5月に「商業用不動産の動向について心配している」という内容の報告書を公表しました。

 

実際、アメリカの大都市のオフィス空室率はかなり酷いものです。

全米不動産業者協会のレポートによると、人口70〜400万人級の大都市で、15%以上の空室率だったのです。

特に、人口規模で全米2位のロサンゼルス、3位のシカゴ、4位のヒューストンなど、人口の多い大都市ほど、空室率が高いことがわかります。

 

都市名 州名 空室率(前年比) 人口(万人)
サンフランシスコ カリフォルニア州 18.85%(+4.18%) 81.5
ヒューストン テキサス州 18.64%(+0.43%) 228.8
ダラス テキサス州 17.93%(+0.35%) 128.8
オースティン テキサス州 16.11%(+3.87%) 96.4
ワシントンDC コロンビア特別区 15.87%(+0.46%) 71.3
フェニックス アリゾナ州 15.78%(+1.57%) 162.5
シカゴ イリノイ州 15.62%(+0.36%) 269.7
デンバー コロラド州 15.34%(+1.13%) 71.2
ロサンゼルス カリフォルニア州 14.99%(+1.32%) 384.9

(参考:全米不動産業者協会)

 

これほど空室率が高いということは、オフィスビルの価格もかなり下落していることになります。

そして、一番最初にご紹介した、サンフランシスコやロサンゼルスの現状についての解説記事で述べたことですが、犯罪率があまりにも高いため、社員、店舗、企業が大都市から逃げています。

 

つまり、オフィスの空室率が改善する可能性は、かなり低いのです。

そのため、オフィスビルに融資をしている銀行の中から、今後破綻する銀行が出てくると予想されます。

 

3、2024年のアメリカの株式市場は大丈夫なのか?

このように、アメリカの実体経済を見てみると、けっこうヤバイ状況にあると思われるのですが、では、株式市場は下がるのでしょうか?

 

2024年は大統領選挙

2024年11月には、アメリカの大統領選挙があります。

アメリカでは、2期8年まで大統領に就くことができるため、再戦を狙う現職の大統領は、経済政策を打ち出すことで、選挙対策を行う傾向にあります。

 

そのため、1970年以降の、大統領選挙までの過去1年間のパフォーマンスを見ると、13回の選挙のうち、10回が上昇していました。

 

アメリカ大統領選挙と株式市場の関係

(参考:Yahoo finance us ,S&P500)

 

実際、12月に行われてFOMCにおいて、パウエルFRB議長は、来年は利下げをするような発言を行なっています。

「政策金利はピークに近い可能性があるだろう」
「(高い金利水準を)長く維持し過ぎるリスクを意識する」
「いつになったら金融引き締めを戻すのが適切なのかという疑問については視野に入ってくるし、きょうの会合でも議論した」

(参考:NHK「FRB議長 衝撃!ハト派“介入” いつ利下げ?【DC発経済コラム】」)

 

これを受けて、アメリカの金利は低下、為替は円高ドル安に、そして株式市場は上昇に転じました。

 

アメリカ政府は、現在ウクライナとイスラエルに軍事支援を行なっており、国内経済向けの財政出動が難しいと思われます。

そのため、FRBによる金融政策で株高に誘導させることで、大統領選挙を乗り切ろうとしているように見えます。

 

このような事情を踏まえると、来年のアメリカの株式市場は、「リーマンショック級の金融危機が起こらなければ、」上昇する可能性が高いでしょう。

 

【結論】不景気の株高、という認識で投資に向かうべき

というわけで結論なのですが、アメリカの実体経済は、多少の利下げをしたところで、回復に向かうような状況ではないと思われます。

社会が壊れつつありますからね。

 

それでも、金融政策(=利下げ)によって、株高を誘導する動機が政府サイドにはあるので、社会・経済が大混乱になるようなレベルでなければ、株高が続くと考えられます。

そのため、仮に大暴落が起こったりした場合には、「ああ、ついに始まったんだな」と投資を引き上げるぐらいの心の準備はしておいた方がいいと思います。

 

このサイトでは、引き続き、アメリカ経済をウォッチしていきたいと思っていますので、他の記事を含めて、参考にしてもらえれば幸いです。

長文お付き合い、ありがとうございました。

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