この記事では、ニューヨーク市(以下「NY市」)で何が起こっているのか?について、解説していきます。
今、Youtubeで「ニューヨーク」で検索すると、ニューヨークの観光案内を除いて、かなりヤバそうな動画がたくさん出てきています。
その中でも気になるのが、
- 不法移民がたくさん来ている
- それによって、住民の反発が強くなって、デモが起こっている
といった内容のものです。
このサイト「アセット&ライフ」では、投資信託などの金融商品の分析・解説をしていますが、その中の1つとして、アメリカの不動産市場へ投資するREITという商品があります。
NY市のこのような現状は、間違いなく不動産市場にも影響が出ているはずです。
そこで、この記事では、NY市で、
- どの程度、不法難民が入ってきているのか?
- なぜ、NY市にこれほどの不法難民が来ているのか?
- 治安や企業への影響
- 日本の投資商品への影響
の4点について、解説していきます。
1、NY市で、何が起こっているのか?
(1)NY市の立地・人口
まずは、NY市の位置や人口などの、基本的な情報を見てみましょう。
NY市は、アメリカ東海岸に位置する市です。
では、その人口はどの程度なのでしょうか?2022年現在、NY市の人口は約833万人です。
1950年ごろには、すでに800万人に迫るほどでしたが、その後はほぼ横ばいが続いていました。特に1980〜90年代は、合成麻薬クラックが流行したことで、殺人事件が増加し、100万人近くの人が郊外に逃げていきました。
その後は、治安も回復し、2020年にはあと少しで900万人の大台を突破するレベルにまで増えていましたが、新型コロナでロックダウンが行われたことで、フロリダなどに移住する人が増え、この2年で約47万人の減少となっています。
(2)NY市への不法移民の流入状況
まずは、NY市へ、どれぐらいの不法移民が来ているのかを確認してみましょう。
なお、合法的な移民は、アメリカのビザを取得して入国するのですが、不法移民は、そのようなビザなしに入国してしまった人たちのことを指します。
米国のニュースを見ると、このような人たちは「migrants(いわゆる移民)」や「Asylum Seeker(亡命希望者)」などと呼ばれているようです。
2023年8月末現在、NY市では、約6万人の不法移民を受け入れています。
(参考:NY市議会 「Asylum seekers report August 2023」)
NY市の市長であるエリック・アダムズ氏は、2022年以降、約11万人の不法移民を受け入れたと語っています。
そして、今後3年で約120億ドル(約1.8兆円)の受け入れ費用が必要と試算しており、かなり厳しい状況にあると発言されています。
(参考:Yahooニュース「移民流入はNYを「破壊」 アダムズ市長」)
なぜ、NY市に不法移民が来ているのか?
その理由は、NY市が「聖域都市(サンクチュアリ・シティ)」と呼ばれる、不法移民に対して手厚い保護を宣言している都市だからです。
聖域都市とは、不法移民に寛容・歓迎な政策をとっているアメリカ合衆国やカナダの地方自治体の総称。
聖域都市に属する警察機構は外国人に対して在留資格の有無を調査しないことをはじめとして、国籍のある国への強制送還措置を前提とした不法移民の取り締まりをする中央政府からの不法移民に関する調査協力を拒否する等している。
NY市は、この聖域都市として宣言しており、移民に対してシェルターや食事、仕事の旋回などを行っています。そのため、経済的にもっと豊かになりたい、南米・アフリカ諸国から、聖域都市への移民が増えているわけですね。
では、具体的に、どの都市が、聖域都市なのでしょうか?
地図上に表示させると、このようになります。
(参考:Center for immigration studies)
全体的に、NY市のある東海岸や、シカゴのある五大湖の周辺、コロラド州、カリフォルニア州やオレゴン州などの西海岸に集中していますね。
いずれに共通するのも、民主党が州知事や市長をしているところになります。民主党は、差別や人権に対する意識が強いため、移民の受け入れに積極的なんですね。
バイデン政権になって、国境を解放してから、不法移民が急増
これまでは、聖域都市と宣言していても、それほど多くの不法移民が来るわけではありませんでした。大半の移民はメキシコ国境からくるわけですし、聖域都市の多くが、北部に位置していますからね。
ところが、これがバイデン政権に変わったことで、状況が変わりました。
トランプ政権の頃に、移民の流入を食い止めるために、メキシコの国境に壁を作っていましたが、バイデン政権に移行してから、この壁は取り払われたのです。
(参考:US Custom and Border Protection)
バイデン政権の当初は、新型コロナの感染拡大もあったため、感染対策として国境警備も厳しく取り締まっていました。
しかし、その後は移民が増加しており、昨年から今年にかけては、月に15〜20万人ペースでの増加となっています。そのうちの一部が、NY市へと流れているわけです。
国境州のテキサス州などで、聖域都市への移民の輸送を開始
また、メキシコと国境を接するテキサス州やアリゾナ州では、かなり多くの移民が流入しており、対応に苦慮しています。
トランプ政権の頃は、国境に壁を設けたことで、移民の流入も抑えられましたし、犯罪や収容するための経済負担も少なくて済んだわけです。
ところが、バイデン政権の民主党に変わり、移民の権利保護のために国境を開いてしまいましたので、その負担を聖域都市へと分担してもらおうと、移民をバスに載せてNY市やワシントンDC、シカゴなどに輸送し始めました。
テキサス州知事のグレッグ・アボット氏のツイートによると、2022年4月〜23年9月6日までの段階で、約3,5000人の移民を聖域都市へと輸送したそうです。
- NY市:13,300人
- ワシントンDC:11,300人
- シカゴ:6,700人
- フィラデルフィア:2,600人
- デンバー:1,000人
- ロサンゼルス:480人
しかし、テキサス州からNY市へのバスによる輸送は、約1.3万人程度であり、同期間にNY市で増えた約11万人と比べると、ほぼ10分の1です。
テキサス州によるバス輸送だけでなく、NPO法人などが手助けして、NY市などの聖域都市への輸送を行っているということです。
また、不法移民と呼ばれる人は、中南米からさまざまな斡旋業者を通じて、アメリカへの入国を目指します。
その中では、「NY市のような聖域都市に行けば、住むところも食料も無料でもらえる」といった情報が共有されているため、テキサス州などの国境州をいくら非難しても、国境そのものを閉じない限りは、NY市への不法移民の流入は止まらないでしょう。
治安はどうなのか?
これほど大量の移民が流入しているとなると、気になるのは治安ですが、NY市の窃盗犯罪の状況を見てみると、2022年ごろから大幅な増加が見られます。
NY市への不法移民が急増したのが、2022年からなので、タイミングとしてはほぼ同時期に当たりますので、「不法移民の急増=犯罪の増加」が起こっている可能性はあります。
しかし、この間には、2020年5月に黒人男性が警察官に殺されたことを受けて、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動が盛り上がり、警察予算の削減が行われています。
これによって、特に民主党が地盤の州・都市では警察官が削減されました。2021年はかなり予算が削減されていることが分かりますね。これが、治安の悪化・窃盗件数の増加につながっていると考えられます。
さらに、同年には、「改正保釈法」と呼ばれる法律がNY州でできたことで、窃盗で捕まった人は、拘置所などに隔離されることはなく、足首に電子モニターをつけたまま、そのまま保釈されることになりました。
今年に入りニューヨーク州は、暴力を訴因としない犯罪については、それが重罪であったとしても基本的には拘置所に入れず、裁判が終わるまで被疑者の足首に電子モニターをつけるという形で釈放するというように、法律を変えた。
(中略)
ところが、改正法が施行された途端、釈放されたばかりの人物がその日のうちにまた新たな犯罪を起こして逮捕されるということが起こった。
米メディア「ブレイドバート・ニュース」によれば、ある犯罪者は起訴状に列挙された前科が50ページにもわたるという状況にもかかわらず、釈放後7時間の間に3回逮捕されたという。
こんなことが起こるのは、NY市において、1,000ドル以下の窃盗は、軽犯罪扱いとなるため、警察に捕まってもすぐに釈放されるからです。
つまり、暴力や殺人さえしなければ、窃盗し放題なのです。2022年に犯罪件数が急増しているのは、このような背景があるからだと言えるでしょう。
不法移民の流入は、ここ1〜2年でNY市を混乱に陥れていますが、犯罪件数の増加は、それ以前からの政策の結果もあってのことだと考えられます。
(3)NY市から企業が出て行っている
2020年の新型コロナをきっかけに、ニューヨーク市では2020〜22年の2年間で、約47万人減少していますが、その一部には、ゴールドマンサックスなどの投資銀行や、ヘッジファンド、資産運用会社が含まれます。
従業員数自体は、それほど多くはないものの、その運用資産・売り上げの規模から言って、NY市の税収にも、影響が出てくる可能性があります。
(*以下の引用している文章は、英記事をグーグル翻訳したものです)
横行する犯罪、厳しい税金、そしてますます法外な生活費を回避しようとして、9,930億ドルもの資産を誇る158社の金融会社がうんざりして、数千人の高給取り従業員を引き連れてビッグアップル(*NY市のこと)から撤退したというデータを示しています。
(中略)
大量移住はNY市にとって、壊滅的な経済的打撃の脅威となっている。昨年、ウォール街はNY市内の全経済活動の16%、州全体の経済活動の7.3%を占めた。
同様に、NY市からの脱出は、市と州にとって税金に重大な影響を及ぼします。報告書によると、昨年、金融会社はニューヨーク州税として54億ドルを支払い、個人所得税徴収額の4分の1近くを占めた。
(参考:NewYork Post 2023.8.21「(英記事)ニューヨーク市、企業が都市から逃避し、ウォール街のビジネスで1兆ドルを失う:レポート」)
ただし、2022年までのNY市の税収の推移を見ると、年々増加傾向にあるため、今のところは、税収の落ち込みは見られていません。
税収の内訳を見ても、個人所得税が伸びているので、給与が上昇しているのでしょう。2023年以降の状況にもよりますが、企業の脱出による影響は、今のところは大きくないようです。
2、NY市は、これからどうなるのか?
以上のことを踏まえると、今後のNY市の予想がなんとなく見えてきます。
- バイデン政権(民主党)が続く限り、メキシコ国境を閉じることはないため、移民の流入は続く
- NY市は、民主党の地盤であり、人権・差別の撤廃に対する意識が強いため、警察権力の削減、軽犯罪の取締りの緩和(貧困による窃盗は止むを得ない、という見方)、不法難民への手厚い保護、を続ける可能性が高い。そのため、NY市への移民流入は今後も続くし、治安の悪化も進むだろう
- リモートワークができる大企業を中心に、治安の悪化を嫌気した、企業の移転が今後も進むだろう。特に金融やテック系の企業の、移転がさらに進みそう
と考えられます。
NY市の不動産市場はどうなるのか?
リモートワークの普及や、金融機関の本社移転によって、NY市のオフィス市場は悪化を続けています。
2022年12月の時点での、マンハッタンのオフィス空室率は、約22.2%と、新型コロナ以前と比べて10%以上も上昇しています。
(参考:クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド「C&W、2022年Q4の米国マンハッタンオフィス市況・空室率が過去最高の22.2%に」)
この傾向は、一向に衰えることがなく、企業の本社移転の動きを見ると、むしろ加速していきそうです。
NY市は、家賃などの生活コストも世界トップレベルに高いですし、税金も高いため、一度、生活コストの安い場所で働けるようになってしまうと、元に戻ることは難しいでしょう。
また、現在、アメリカの中央銀行であるFRBは、オフィスなどの商業用不動産の下落リスクに注視をしています。
金利の上昇やオフィスの空室率の悪化によって、商業用不動産の下落や、中小銀行の破綻の可能性が上がっていることに、注意を払っているのです。
(参考:ニッセイ基礎研究所「アメリカの商業用不動産市場の動向~FRBは中小銀行のリスク集中を懸念~」)
そのため、不動産価格が潜在的に下落するリスクはまだ高い可能性があり、今後の経済状況の悪化とともに、それが表に現れてくるかもしれません。
REITや、アメリカ株式を保有しているのであれば、今後の米国関連のニュースには注意を払った方がいいでしょう。
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