ニューヨークが兵糧攻めに?トラック運転手がニューヨークへの輸送をボイコットへ

アメリカ国旗とトラック アメリカ経済・社会

この記事では、トラック運転手によるニューヨークへの輸送ボイコットの動きと、その影響について解説します。

 

1、トランプ元大統領への巨額の罰金に対して、一部のトラック運転手が反発

2月16日、ニューヨーク地裁は、トランプ元大統領に対して、3億5,490万ドル(約532億円)の罰金の支払いを命じる判決を出しました。

 

米ニューヨーク州の連邦地裁は16日、トランプ前米大統領に対し、3億5490万ドルの罰金支払いを命じる判決を下した。金融機関から融資を受ける際に資産価値を過大に申請し、不正な利益を得たと判断した。
 
また、トランプ氏がニューヨークで法人の経営に携わることを3年間禁止するとした。

 

今年の11月にアメリカでは大統領選挙がありますが、共和党の候補者は、トランプ元大統領が有力だと報じられています。

そのトランプ氏に対して、このような巨額の罰金を支払わせるような判決が出たため、トランプ支持者の多くが反発をしているようです。

 

その流れの中で、一部のトラック運転手が、不当な判決を下した(と彼らが見なしている)ニューヨーク市への、物資の輸送を拒否する動きが出てきており、

「ニューヨークに物が入ってこなくなるのではないか?」

と話題になっています。

 

 

 

2、今回のボイコットが、大きくなりそうな3つの理由

2月20日現在、今回のニューヨークへの輸送ボイコットは、どのくらいの規模になるのかは、まだ未知数です。

「ボイコットすれば、他の人がその仕事をもらうだけなので、痛い目を見るのは、ボイコットした運転手自身だ」というコメントも見られます。確かに、そのような可能性もあるでしょう。

 

ですが、それなりの規模になってくれば、話は別です。そして、その可能性は、けっこうあるのではないかと思われます。

その理由は、大きく4つあります。

 

(1)トラック運転手の約6割が、白人

1つ目が、トラック運転手の、政治的な立ち位置です。

トランプ支持者の一般的な特徴として、「地方」「白人」「ブルーワーカー」が挙げられますが、その属性を満たす人が、トラック運転手に多いのです。

 

トランピアン(=トランプ支持者)とは誰なのか。統計上、共通項として表れるのが地方に住む「白人」「非知識者層」という特徴だ。

(参考:東洋経済「トランプ熱烈支持者とは、いったい誰なのか」)

 

実際、アメリカのトラック運転手の約6割が、白人です。トラック運転手はブルーワーカーですので、その多くが、トランプ支持者だと予想されます。

(参考:*英語サイト ZIPPA 「米国のプロのトラック運転手の人口統計と統計」)

 

(2)トラック運転手が不足しているので、ボイコットした人をクビにできない

2つ目が、トラック運転手の不足です。

「ボイコットをするような人は、クビにすればいいじゃないか」と思う人もいるかもしれません。ですが、アメリカでは、2023年現在、トラック運転手が約8万人も不足している、というのです。

 

日本でも、トラック運転手は、大型免許を取らなければいけないのに、長時間労働で、給料も安く、なり手が減っていますが、アメリカでも事情は同じようです。

 

注)英語サイトをGoogle翻訳しています

最近の調査によると、今年(2023年)アメリカで不足しているドライバーを補うには8万人以上のドライバーが必要だという。そして残念なことに、この問題はすぐには解決されそうにありません。2030年までにトラック運転手は16万人不足するといわれています

(参考:AJOT.com「米国のトラック運転手不足は続く」)

 

つまり、ボイコットをした人を企業がクビにすれば、その影響は自分たちに返ってくるのです。

そのため、企業の側でも、ボイコットをコントロールすることは難しいのではないかと予想されます。

 

全米トラック運転手組合もトランプ支持に傾きそう

また、民主党の支持基盤の一つである全米トラック運転手組合が、トランプ支持に傾く可能性が出てきました。

 

共和党のトランプ前大統領は1月31日、ワシントンで主要労組、全米トラック運転手組合の幹部らと会談し、推薦獲得を図った。

(中略)

トランプ氏は幹部との会談後、記者団に「思いもよらないことが起きている。共和党は普段推薦を得られないが私の場合は違う」と話し、推薦獲得に自信を見せた。
 
同組合トップのオブライエン氏は会談について「楽しく率直なものだった」と評価した。

 

運転手組合は、労働者の代表ですから、民主党の支持基盤です。

その組合が、トランプ氏への支持に転換すれば、トラック運転手のボイコットするハードルはさらに下がります。

 

そのため、「個人としてはトランプ支持だけど、クビになるのは嫌だ」と思っている人も、今回のボイコットに参加する可能性が高まっているかもしれません。

 

(3)過去にもトラック運転手によるボイコット活動があって、成功している

また、過去にトラック運転手によるボイコット運動によって、政府側が折れた事例もあります。

2021年にコロラド州で、キューバ移民の新米のトラック運転手が、事故を起こした罪で懲役110年の判決を受けたことに対して、ヒスパニック系のトラック運転手を中心に、ボイコット運動が起こりました。

 

注)英語記事をGoogle翻訳しています

コロラド州トラック輸送ボイコットは、トラック運転手のロジェル・アギレラ=メデロスに懲役110年の判決が言い渡されたことを受けて、2021年12月の最後の数週間に起きた。

(中略)

これらの懸念を念頭に置き、トラック運送コミュニティの一員としての団結の表明として、何千人ものドライバーがTikTok、Facebook、Twitterで名乗り出て、この判決に対する憤りを表明し、2021年12月中旬までに全面的な判決が下された。コロラド州では本格的なボイコットが進行中だった。

州境の高速道路の路肩に並んで進入を拒否し、停止したトラックの映像が浮かび上がった。

(参考:cloudtrack.com「コロラド州のトラック輸送ボイコットで何が起こったのか?」)

 

この結果、懲役110年から、10年に刑期が短縮されました。

この事例は、トラック運転手だけでなく、多くの有名人がSNSなどで拡散したり、署名活動を行っていたため、ボイコットの効果だとは必ずしも言えません。

 

ですが、重要なのは、「トラック運転手の方々が、自分たちの稼ぎが減る可能性のあるボイコットを数週間にわたって行った」という事実です。

今回のトランプ氏への、巨額の罰金に対するボイコットも、2021年に起こったこのボイコットと同様の性質のものに感じられます。

 

(4)トランプ氏への他の裁判が、まだたくさん控えている

4つ目の理由は、トランプ氏が抱えている裁判が、これだけではない、という点です。

 

新聞やニュースなどで、たびたびトランプ氏の裁判報道を目にすると思いますが、係争中の裁判は、代表的なものだけでこれだけあります。

  • 性的暴行、名誉毀損の裁判(ニューヨーク州地裁)
  • 不倫口止め料に関する記録改ざんについての裁判(ニューヨーク州地裁)
  • 2020年の大統領選挙の結果を覆そうとしたという連邦法違反の罪に対する裁判(ワシントンDC)

*( )内は、裁判が行われている場所

 

今回の裁判の判決は、その中のうちの一つなのです。

今後も他の裁判で、トランプ氏に不利な判決が出れば、そのたびに、支持者が何らかの行動をうつす可能性がありますよね。

 

しかも、上記の裁判の2つがニューヨーク州地裁であり、他の裁判でもトランプ氏が敗訴すれば、改めてニューヨークへのボイコットの話題が出てくるのは、容易に想像できると思います。

 

3、NYはどうなるのか?

今回のボイコットが沈静化したとしても、別の裁判で不利な結果が出れば、また改めてボイコットが起こる可能性は十分にあります。

 

仮にボイコットが数週間、数ヶ月間という単位で続いた場合に、ニューヨークはどうなってしまうのでしょうか?

まず思いつくのは、食料品や消費財が入りにくくなったり、値上げが起こることでしょう。かなり生活が苦しくなってきそうです。

 

これはすぐに思いつきそうですが、それ以外にも、かなりヤバイことが3つあります。

 

(1)不法移民の暴動が起こる

1つ目が、不法移民の暴動の可能性です。

現在、アメリカでは、主にメキシコ国境からの不法移民が大挙して押し寄せてきている状況です。

その数は、毎月30〜40万人規模とも言われ、国境に接するアリゾナ州やカリフォルニア州、テキサス州では、パンク寸前となっています。

 

そして、そうやって入ってきた移民が、ニューヨークにも大挙して押し寄せているのです。

 

 

上の動画は、ニューヨークに移民があまりに入ってきているため、路上で待機させられている映像です。

 

NY市の市長であるエリック・アダムズ氏は、2022年以降、約11万人の不法移民を受け入れたと語っています。

そして、今後3年で約120億ドル(約1.8兆円)の受け入れ費用が必要と試算しており、かなり厳しい状況にあると発言されています。

(参考:Yahooニュース「移民流入はNYを「破壊」 アダムズ市長」)

 

これらの移民の方々は、ホテルや廃校になった学校や、体育館などの公共施設に収容されているのですが、あまりに数が多すぎて、対処できない状況となっています。

 

このような人たちの全てが、定職についているわけではなく、生活保護のような状態の人もたくさんいますので、食品などの生活必需品が入ってこなくなれば、真っ先にしわ寄せが来ます。

すでにニューヨークでは、窃盗などの軽犯罪が増えているようですが、その流れがさらに加速する可能性があるのです。

 

(2)他の都市への従業員、企業の移住が増える可能性

2つ目が、企業や従業員のニューヨークからの脱出です。

 

ニューヨークは、2020年の新型コロナの感染拡大期に、ロックダウン(都市封鎖)を強力に行いました。

マスク着用や、リモートワークの強制、必要最低限の買い物以外の外出を禁止など、かなり住みにくい環境だったようです。

 

その結果、ニューヨークの人口は、2020年をピークにして、2022年までに約47万人減少しています。

 

ニューヨーク市の人口推移

(参考:U.S. Census Bureau)

 

ニューヨークは銀行や証券、資産運用などの金融業が発達している街ですので、銀行などの窓口業務を除けば、リモートワークがけっこう可能な業種です。

そのため、このような業種を中心に、ニューヨークから本社を移転する企業が増えています。

 

(*以下の引用している文章は、英記事をグーグル翻訳したものです)

横行する犯罪、厳しい税金、そしてますます法外な生活費を回避しようとして、9,930億ドルもの資産を誇る158社の金融会社がうんざりして、数千人の高給取り従業員を引き連れてビッグアップル(*NY市のこと)から撤退したというデータを示しています。

(中略)

大量移住はNY市にとって、壊滅的な経済的打撃の脅威となっている。昨年、ウォール街はNY市内の全経済活動の16%、州全体の経済活動の7.3%を占めた。

同様に、NY市からの脱出は、市と州にとって税金に重大な影響を及ぼします。報告書によると、昨年、金融会社はニューヨーク州税として54億ドルを支払い、個人所得税徴収額の4分の1近くを占めた。

(参考:NewYork Post 2023.8.21「(英記事)ニューヨーク市、企業が都市から逃避し、ウォール街のビジネスで1兆ドルを失う:レポート」)

 

ニューヨークは、アメリカでも有数の物価が高いエリアです。

ただでさえお金がかかる街なのに、食べ物も手に入りにくい(またはさらに値上げされてしまう)、治安も悪いとなれば、リモートワークができる企業は、他の街に脱出してしまうのではないでしょうか。

 

(3)オフィス・商業施設などの商業用不動産の価格が暴落する

3つ目は、商業用不動産の価格暴落です。

最近、あおぞら銀行が、アメリカの不動産投資で大損をしてしまい、株価が3割以上下落してしまいました。

また、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)という銀行が、やはり赤字決算を出したことで、株価が半値以下になっています。

 

これらの原因は、ニューヨークのオフィスビルの評価損が膨れているためです。

あおぞら銀行の決算資料を見ると、ニューヨークやロサンゼルス、シカゴなどの大都市で取得した不動産の評価損が5〜6割にも達していることがわかります。

 

あおぞら銀行の決算

(参考:あおぞら銀行 2024年第三四半期 決算概要)

 

①リモートワークの普及や、②金融業を中心にした本社移転、③賃料収入が落ち込み、④さらに金利が上がっている、といった理由が重なって、このような価格下落が起こっているわけです。

そして、今回のボイコットが長期化すれば、オフィスの空室率だけでなく、スーパーやモールなどの商業施設の閉店も予想されます。

 

これらの施設の運営会社にお金を貸している銀行のいくつかは、破綻したり、買収されたりすることになるでしょう。

 

まとめ

というわけで、ニューヨークで現在話題となっている、トラック運転手によるボイコットの動きについて解説してきました。

この運動が、どれぐらい広がるのかは、これから1〜2週間の動きを見れば、少しずつわかってくるでしょう。

 

そして、もし仮に、今回の騒動が鎮静化したとしても、次のボイコットが起こってくる可能性は高いと考えられます。

というのも、アメリカの大統領選挙は11月なので、まだまだ民主党・共和党、どちらの支持者も、行動がエスカレートする可能性があるからです。

 

トランプ支持者は、「地方」「白人」「ブルーカラー」が多いと言われます。

そうなると、トラック運転手だけでなく、農家や工場作業員、石油・石炭などの採掘業者、などの、現在の生活に欠かせない人たちによるボイコットが起こってもおかしくありません。

 

「民主党と共和党との断絶」が言われて久しいですが、これがさらにエスカレートすると、現代の社会生活そのものが、維持できなくなってくる可能性があるように思います。

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