しんきんJ-リートオープンのリスクと今後の見通し

ビル群6 国内リート

この記事では、しんきんアセットマネジメントの投資信託「しんきんJ-リートオープン」について、

  • 基準価格の動き
  • なぜ下がっているのか?
  • 注意すべきリスク
  • どんな人に向いている商品なのか?

の4点を中心に解説していきます。

 

1、基準価格の動き

まずは、しんきんJ-リートオープンの基準価格について見てみましょう。

2023年8月1日現在において、基準価格は1口あたり2,775円となっています(青色の線)。

この投資信託は、毎月25円の分配金を出しているため、2018年1月からの分配金を含めた価格は、6,550円となります(緑色の線)。

 

しんきんJ-リートオープンの基準価格

(参考:しんきんAM 「しんきんJ-リートオープン」)

 

なので、どこで買ったら儲かっているのか?は、緑色の線で見て判断します。2021年以降は、分配金込みでも、ほとんど横ばいとなっていることがわかりますね。

また、分配金を除くと、下落傾向にあります。

 

2、なぜ、下げているのか?

理由は大きく2つあります。

 

(1)株価が下落している業種がかなりある

業種別に、代表的なリートの株価を追いかけてみると、2021年以降に下落しているのは、物流やオフィス、商業施設でした。

 

業種別リートの株価推移

(参考:Yahoo finance (US))

 

それぞれ下落した主な理由は、

  • オフィス:リモートワークの普及で、空室率が上昇
  • 物流・商業施設:物価上昇によって、消費が減退

と考えられます。

 

しんきんJ-リートオープンの業種別の構成

では、しんきんJ-リートオープンは、どのような業種に投資をしているのでしょうか?

 

しんきんJ-REITの組入構成比

(参考:しんきんAM 「運用レポート(月次) 2023.7.7」)  

 

「総合型」というカテゴリーが1番比率が高いですね。

これは、ホテルや住居用マンション、ショッピングモールなどの特定の施設に限定せず、幅広い種類の物件に投資しているリートになります。

また、「複合型」は、これらのカテゴリーのうち、2種類だけを組入れているものです。ですから、いろいろな種類が組み込まれているのが、ほぼ半分ということになります。

 

例えば、新型コロナの感染拡大があった2020年は、緊急事態宣言が出され、外出の自粛が起こりました。 これによって、外国人観光客も激減し、ホテルや商業施設の売り上げは減少し、これらの物件を組み入れていたリートも大きく影響を受けました。

逆に、ネットでの通販需要が伸びたことで、ネット通販用の物流施設への投資が活発化し、物流関連のリートは、業績を大きく伸ばしました。

 

このように、特定の物件を扱うリートは、外部環境によって、良くも悪くも大きく影響を受けますが、総合型や複合型は、いろいろな種類の物件を扱うため、良い業種と悪い業種の影響を、ある程度相殺することができます。

しんきんJリートオープンは、総合型・複合型で約半分近くを占めますので、かなりバランスよく分散したファンドだと言えるでしょう。

 

(2)高い分配金が、タコ足配当になっている

2つ目が、タコ足配当です。

しんきんJ-リートオープンの分配金は、8月時点で毎月25円です。徐々に下がって来てはいますが、このまま毎月25円の配当を出すとすると、年間300円になります。

2023年8月1日現在の基準価格は2,775円ですので、分配率はなんと年10.8%にもなります。

 

ところが、国内で上場しているJリート全体の平均配当利回りは、約4%であり、足りない約6.8%分が、投資している元本を取り崩して分配金に回していることになります。

そのため、基準価格が下落しているわけですね。

 

3、今後注意すべきリスク

金利の上昇リスク

しんきんJ-リートオープンを持っている人にとって、今後もっとも注意すべきリスクは、金利の上昇です。

2013年から始まったアベノミクス以降、低金利がずっと続いていましたので、忘れられがちではありますが、リートという金融商品は、金利上昇の影響をいろいろな形で受けます。

実際、アメリカのリートでは、今回のアメリカの中央銀行による急激な利上げによって、リートの価格は下落しています。

 

USリート指数とアメリカの政策金利

(参考:外為ドットコムNAREIT

 

そこで、ここでは、金利上昇によってリートが下落しやすくなる理由を3点解説します。

 

①借入の金利が上がることで、配当が減る

リートは、家賃収入がもらえる不動産への投資を行っているため、企業の株式に比べてリスクが少ないと思われがちです。

ですが、リートは、投資家のお金だけでなく、金融機関からのお金を借りて、物件を投資しています。

 

リートの仕組み

 

このことは、月次レポートの中でも触れられておらず、忘れがちなポイントです。

ですが、現在の世界的な金利上昇局面においては、リートの価格にも影響が出てくる可能性が高く、現状をきちんと把握しておくべきでしょう。

2023年6月現在のしんきんJ-リートオープンの組入上位10銘柄の、自己資本比率を調べてみた結果がこちらです。

 

組入上位銘柄 組入比率(%) 自己資本比率(%) 参考にした決算期
日本ビルファンド 6.40 51.6 2022年12月期
ジャパンリアルエステイト 5.22 49.5 2023年3月期
日本プロロジスリート 5.20 58.5 2023年5月期
野村不動産マスターF 5.18 51.8 2023年2月期
GLP 4.91 52.8 2023年2月期
日本都市ファンド 4.58 50.0 2022年2月期
オリックス不動産 4.49 51.6 2023年2月期
インヴィジブル 4.00 50.6 2022年12月期
大和ハウスリート 3.98 54.1 2023年2月期
ユナイテッド・アーバン 3.83 49.8 2023年5月期

(参考:リート各社の決算短信より)

 

だいたいの銘柄で、自己資本比率が50%前後となっていますね。

これは、投資家のお金が約5割で、残りの5割が金融機関などからの借入によるもの、ということです。

では、どれぐらいの期間で借りているのでしょうか? 組入比率1位の日本ビルファンドの決算説明会資料に載っていた資料がこちらです。  

 

日本ビルファンドの満期別の返済残高 (参考:日本ビルファンド 決算説明会資料 2022年12月期)

 

約6,600億円の負債のうち、2023年に返済が必要なのが、約500億円と約8%程度で、その後も年間8%前後と、かなり分散されていることが分かりますね。

現在、金利が上昇傾向にありますが、現在の借金の全ての金利が一気に上がるわけではなく、満期が来た借金を借り換える時に、借入れ金利が引き上がることになります。

 

上記のリートを例にすると、1年以内に約8%程度が満期(=借り換え)となるため、金利が上がるだけならば、これから数年ぐらいは、分配金の利回りが大きく下がることはないでしょう。  

 

②他の金融商品と比べて、魅力が下がる

Jリートへの投資する理由に「値上がりして儲かりそうだから」と考える人は、あまりいないでしょう。

むしろ、「安定した家賃収入が入るので、安心して保有し続けられる」という、国債や定期預金などと比較しての投資が、多いでしょう。

 

しかし、金利が上昇するということは、このような金利型の商品の魅力が上がることを意味します。そして、Jリートは、金利上昇局面では、家賃を上げられなければ、逆に配当利回りが下がってしまいます。

例えば、以下のような条件の時に、どちらのリートを買いたいと思うでしょうか?

 

  ①現在 ②金利上昇後
A)10年国債の利回り 0.5% 1.5%
B)リートの利回り 4% 3.5%
利回り差(BーA) 3.5% 2.0%

おそらく、②金利上昇後よりも、①現在の方が、リートに投資したくなるでしょう。

実際には、金利上昇後には、魅力的な利回り水準になるまで、リートの価格が下落することになるでしょう。

 

基準価格が100円で年間4円の配当金が出るのであれば、年利4%ですが、配当金が3.5円しかでなくなっても、基準価格が70円に下がれば、年利5%になりますからね。

このように、金利が上昇してくると、国債や定期預金などの貯蓄商品の金利も上がりますから、それ以上の魅力的な条件となるために、価格の下落を通じた利回りの上昇が起こるでしょう。 

 

③金利上昇によって、物件の価格が下がりやすくなる

金利が上昇すると、実体経済にも影響が出て来ます。

例えば、2013年のアベノミクス以降、金利が約1%下がったことで、住宅ローンを組みやすくなり、不動産価格の上昇につながりました。

都内のマンションは、新築で1億円を超える物件も珍しくなくなっていますが、これも低金利による影響が大きいです。

 

金利が上昇するということは、これと逆のことが起こると言えます。

例えば、月に10万円の返済で、4,000万円の物件まで購入できたのが、金利上昇によって、同じ返済額では、3,500万円までの物件しか購入できなくなる、ということが起こるわけですからね。

 

これは、マンションだけでなく、他の業種でも影響が出てきます。

先ほど、業種別のリート価格を見てもらいましたが、物流施設や商業施設は、物価上昇による売り上げ減少の影響を受けて、下落していました。

 

金利が上昇すれば、ローンでモノを買う人も減りますし、景気も悪化するため、企業のオフィス需要も減りやすくなります。

不動産の賃料や物件価格は、実体経済の影響も受けますから、リート価格にも悪影響が出てくるでしょう。

 

4、どんな人に向いている商品なのか?

ダイワJ-リートオープンのこれまでの動きや、今後のリスクについて解説してきましたが、ここでは、どんな人に向いている商品なのか?について、あらためて整理したいと思います。

 

運用手数料に見合う対価とは何か?

ダイワJ-リートオープンは、投資信託ですので、運用手数料がかかります。

主なものとしては、

手数料の種類 手数料率
購入時の手数料(販売会社による) 最大2.2%
運用管理手数料 年率1.045%
信託財産留保金(解約時にかかる) 0.3%

などが挙げられます。  

 

ちなみに、しんきんJリートオープンの組入れ銘柄の予想配当利回りは、運用報告書やレポートの中では書かれていませんが、東証REIT指数の平均配当利回りが、だいたい4.0%程度なので、このファンドも4%前後と予想できます。

 

購入時の手数料と運用管理手数料で、約3.2%かかりますので、最初の1年間の配当収入は、これらの手数料を差し引くと、実質0.8%程度の利益となります。

また、2年目以降についても、年1.045%の運用管理手数料かかりますので、配当収入は約2.9%程度になると言えます。

 

このような手数料の構成から見ても、しんきんJリートオープンは、少なくとも1年以上の保有を前提とした投資信託と言えるでしょう。  

 

Jリートに直接投資するのと、何が違うのか?

ですが、株式市場に上場しているJリートへ投資するのであれば、購入時の手数料は、ネット証券ならば0.1%前後、運用管理手数料はかかりません。  

  しんきんJリートオープン 証券会社でJリートを購入
購入時の手数料 最大2.2% 約0.1〜1%
運用管理手数料 年1.045% なし
売却(解約時の手数料) 0.3% 約0.1〜1%
合計(1年保有した場合) 約3.5% 約0.2〜2%

 

1年保有したと仮定した場合の、かかる手数料の差を見ると、かなり違うことがわかりますね。

1年で1.5〜3.3%も違うのであれば、購入する側から見れば、それに見合った何かを期待しますよね。では、具体的に、どんなメリットがあるのでしょうか?

元証券マンの視点で見ると、

  1. 数万円〜数十万円程度の少額での投資であれば、分散投資のメリットがある
  2. 銘柄選びに悩まなくて済む
  3. 担当者からのアドバイスがもらえる

が、主なメリットだと言えるでしょう。

 

つまり、投資初心者や、担当者にアドバイスをもらいながら、投資を続けるつもりの人にとって、最適な商品ということですね。

逆を言えば、買う時にだけ熱心に勧めてきて、その後はまったくフォローがない、ということであれば、ほとんどメリットはないと思います。  

リートのETFなどをネット証券などで直接購入した方が、はるかに安上がりですし、余計な手数料を払う必要もないため、利益が増えるでしょう。

 

まとめ

ちょっと長くなってしまったので、まとめると、

  • リートは、銀行からの借金が約半分入っているケースが多く、金利が上昇すると、利息負担が増えて、配当金が減りやすくなる
  • 利回り商品であるリートを投資信託で購入すると、年間約1%の運用管理手数料を取られるので、「担当者への相談ができる」などのメリットがなければ、個別株のように市場で購入した方が、儲けが増えやすい
  • 現在の金利上昇は、マンション価格や商業施設の価格にも影響が出て来そうなので、投資を続けるのであれば、金利や不動産価格の動向には注意を払っておいた方がいい

と言えるでしょう。 今後の投資の参考になれば幸いです。  

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