Jリート・リサーチオープンのリスクと今後の見通し

ビル群3 国内リート

この記事では、三井住友アセットマネジメントの投資信託「Jリート・リサーチオープン」について、

  • 基準価格の動き
  • なぜ下がっているのか?
  • 注意すべきリスク
  • どんな人に向いている商品なのか?

の4点を中心に解説していきます。

 

1、基準価格の動き

まずは、Jリート・リサーチオープンの基準価格について見てみましょう。

2023年8月1日現在において、基準価格は1口あたり5,697円となっています(青色の線)。

この投資信託は、毎月65円の分配金を出しているため、2018年1月からの分配金を含めた価格は、10,052円となります(緑色の線)。

 

三井住友信託AMのジェイリート・リサーチOPの基準価格の推移

(参考:三井住友トラストAM 「Jリート・リサーチオープン」)

 

なので、どこで買ったら儲かっているのか?は、緑色の線で見て判断します。2021年以降は、分配金込みでも、ほとんど横ばいとなっていることがわかりますね。

また、分配金を除くと、下落傾向にあります。

 

2、なぜ、下げているのか?

理由は大きく2つあります。

 

(1)株価が下落している業種がかなりある

業種別に、代表的なリートの株価を追いかけてみると、2021年以降に下落しているのは、物流やオフィス、商業施設でした。

 

業種別リートの株価推移

(参考:Yahoo finance (US))

 

それぞれ下落した主な理由は、

  • オフィス:リモートワークの普及で、空室率が上昇
  • 物流・商業施設:物価上昇によって、消費が減退

と考えられます。

 

Jリート・リサーチオープンの業種別の構成

では、Jリート・リサーチオープンは、どのような業種に投資をしているのでしょうか?

 

Jリート・リサーチオープンの組入状況

(参考:三井住友トラストAM 「月次レポート 2023.6.30」)

 

総合型が6割以上を占めていますね。総合型とは、ホテルや住居用マンション、ショッピングモールなどの特定の施設に限定せず、幅広い種類の物件に投資しているリートになります。

 

Jリートの業種別の主要銘柄の株価を見てもらった通り、マンションやホテル以外は、下落傾向にあります。

そして、このファンドの組入比率を見ると、比較的安定していたホテルやマンション向けは、ほとんど投資をしていません。そのため、価格下落の影響を受けたと考えられます。

 

(2)高い分配金が、タコ足配当になっている

2つ目が、タコ足配当です。

Jリート・リサーチオープンの分配金は、毎月65円であり、年間で780円です。2023年8月1日現在の基準価格は5,697円ですので、分配率はなんと年13.7%にもなります。

 

ところが、Jリートの平均配当利回りは、約4%であり、足りない約9.7%分が、投資している元本を取り崩して分配金に回していることになります。

そのため、基準価格が下落しているわけですね。

 

3、今後注意すべきリスク

金利の上昇リスク

Jリート・リサーチオープンを持っている人にとって、今後もっとも注意すべきリスクは、金利の上昇です。

2013年から始まったアベノミクス以降、低金利がずっと続いていましたので、忘れられがちではありますが、リートという金融商品は、金利上昇の影響をいろいろな形で受けます。

実際、アメリカのリートでは、今回のアメリカの中央銀行による急激な利上げによって、リートの価格は下落しています。

 

USリート指数とアメリカの政策金利

(参考:外為ドットコムNAREIT

 

そこで、ここでは、金利上昇によってリートが下落しやすくなる理由を3点解説します。

 

①借入の金利が上がることで、配当が減る

リートは、家賃収入がもらえる不動産への投資を行っているため、企業の株式に比べてリスクが少ないと思われがちです。

ですが、リートは、投資家のお金だけでなく、金融機関からのお金を借りて、物件を投資しています。

 

リートの仕組み

 

このことは、月次レポートの中でも触れられておらず、忘れがちなポイントです。

ですが、現在の世界的な金利上昇局面においては、リートの価格にも影響が出てくる可能性が高く、現状をきちんと把握しておくべきでしょう。

2023年6月現在のJリート・リサーチオープンの組入上位10銘柄の、自己資本比率を調べてみた結果がこちらです。

 

組入上位銘柄 組入比率(%) 自己資本比率(%) 参考にした決算期
ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト 5.73 46.4 2023年1月期
積水ハウス・リート 5.62 51.6 2023年4月期
ヒューリックリート 5.38 50.0 2023年2月期
平和不動産リート 5.33 48.6 2023年5月期
日本プライムリアルティ 4.71 53.9 2022年12月期
NTT都市開発リート 4.02 50.1 2023年4月期
大和ハウスリート 3.91 54.1 2023年2月期
森ヒルズリート 3.85 49.4 2023年1月期
ケネディクス・オフィス 3.68 48.6 2023年4月期
アクティビア・プロパティーズ 3.67 48.3 2023年5月期

(参考:リート各社の決算短信より)

 

だいたいの銘柄で、自己資本比率が50%前後となっていますね。これは、投資家のお金が約5割で、残りの5割が金融機関などからの借入によるもの、ということです。

では、どれぐらいの期間で借りているのでしょうか?

組入比率1位のケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人の決算短信から調べた結果がこちらです。

 

ケネディクスレジデンシャルネクスト投資法人の長期負債の返済までの期間

(参考:ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人 決算短信 2023年1月期)

 

1年以内に返済する借金は、約1割程度で、5年以上の長めの借金は約3割程度となっていました。

現在、金利が上昇傾向にありますが、現在の借金の全ての金利が一気に上がるわけではなく、満期が来た借金を借り換える時に、借入れ金利が引き上がることになります。

 

上記のリートを例にすると、1年以内に約1割程度が満期(=借り換え)となるため、金利が上がるだけならば、これから1〜2年ぐらいは、分配金の利回りが大きく下がることはないでしょう。

しかし、このまま金利が今よりも高い状況が長く続けば、借入金利は確実に上昇して来ますので、配当利回りが下がってしまい、価格下落のリスクが高まるでしょう。

 

②他の金融商品と比べて、魅力が下がる

Jリートへの投資する理由に「値上がりして儲かりそうだから」と考える人は、あまりいないでしょう。

むしろ、「安定した家賃収入が入るので、安心して保有し続けられる」という、国債や定期預金などと比較しての投資が、多いでしょう。

 

しかし、金利が上昇するということは、このような金利型の商品の魅力が上がることを意味します。そして、Jリートは、金利上昇局面では、家賃を上げられなければ、逆に配当利回りが下がってしまいます。

 

例えば、以下のような条件の時に、どちらのリートを買いたいと思うでしょうか?

 

  ①現在 ②金利上昇後
A)10年国債の利回り 0.5% 1.5%
B)リートの利回り 4% 3.5%
利回り差(BーA) 3.5% 2.0%

 

おそらく、②金利上昇後よりも、①現在の方が、リートに投資したくなるでしょう。

実際には、金利上昇後には、魅力的な利回り水準になるまで、リートの価格が下落することになるでしょう。

基準価格が100円で年間4円の配当金が出るのであれば、年利4%ですが、配当金が3.5円しかでなくなっても、基準価格が70円に下がれば、年利5%になりますからね。

 

このように、金利が上昇してくると、国債や定期預金などの貯蓄商品の金利も上がりますから、それ以上の魅力的な条件となるために、価格の下落を通じた利回りの上昇が起こるでしょう。

 

③金利上昇によって、物件の価格が下がりやすくなる

金利が上昇すると、実体経済にも影響が出て来ます。

例えば、2013年のアベノミクス以降、金利が約1%下がったことで、住宅ローンを組みやすくなり、不動産価格の上昇につながりました。

都内のマンションは、新築で1億円を超える物件も珍しくなくなっていますが、これも低金利による影響が大きいです。

 

金利が上昇するということは、これと逆のことが起こると言えます。

例えば、月に10万円の返済で、4,000万円の物件まで購入できたのが、金利上昇によって、同じ返済額では、3,500万円までの物件しか購入できなくなる、ということが起こるわけですからね。

 

これは、マンションだけでなく、他の業種でも影響が出てきます。

先ほど、業種別のリート価格を見てもらいましたが、物流施設や商業施設は、物価上昇による売り上げ減少の影響を受けて、下落していました。

 

金利が上昇すれば、ローンでモノを買う人も減りますし、景気も悪化するため、企業のオフィス需要も減りやすくなります。

不動産の賃料や物件価格は、実体経済の影響も受けますから、リーと価格にも悪影響が出てくるでしょう。

 

4、どんな人に向いている商品なのか?

Jリート・リサーチオープンのこれまでの動きや、今後のリスクについて解説してきましたが、ここでは、どんな人に向いている商品なのか?について、あらためて整理したいと思います。

 

運用手数料に見合う対価とは何か?

Jリート・リサーチオープンは、投資信託ですので、運用手数料がかかります。

主なものとしては、

手数料の種類 手数料率
購入時の手数料(販売会社による) 最大3.3%
運用管理手数料 年率1.1%
信託財産留保金(解約時にかかる) 0.3%

などが挙げられます。

 

ちなみに、Jリート・リサーチオープンの組入銘柄の予想配当利回りは、年4.06%となってます。

購入時の手数料と運用管理手数料で、約4.4%かかりますので、最初の1年間の配当収入は、これらの手数料とで相殺されることになります。

また、2年目以降についても、年1.1%の運用管理手数料かかりますので、配当収入は約3%弱になると言えます。

 

このような手数料の構成から見ても、Jリート・リサーチオープンは、少なくとも1年以上の保有を前提とした投資信託と言えるでしょう。

 

Jリートに直接投資するのと、何が違うのか?

ですが、株式市場に上場しているJリートへ投資するのであれば、購入時の手数料は、ネット証券ならば0.1%前後、運用管理手数料はかかりません。

 

  Jリート・リサーチオープン 証券会社でJリートを購入
購入時の手数料 最大3.3% 約0.1〜1%
運用管理手数料 年1.1% なし
売却(解約時の手数料) 0.3% 約0.1〜1%
合計(1年保有した場合) 約4.7% 約0.2〜2%

 

1年保有したと仮定した場合の、かかる手数料の差を見ると、かなり違うことがわかりますね。

1年で2〜4%も違うのであれば、購入する側から見れば、それに見合った何かを期待しますよね。では、具体的に、どんなメリットがあるのでしょうか?

元証券マンの視点で見ると、

  1. 数万円〜数十万円程度の少額での投資であれば、分散投資のメリットがある
  2. 銘柄選びに悩まなくて済む
  3. 担当者からのアドバイスがもらえる

が、主なメリットだと言えるでしょう。

つまり、投資初心者や、担当者にアドバイスをもらいながら、投資を続けるつもりの人にとって、最適な商品ということですね。

 

逆を言えば、買う時にだけ熱心に勧めてきて、その後はまったくフォローがない、ということであれば、ほとんどメリットはありません。

リートのETFなどをネット証券などで直接購入した方が、はるかに安上がりですし、余計な手数料を払う必要もないため、利益が増えるでしょう。

 

まとめ

ちょっと長くなってしまったので、まとめると、

  • リートは、銀行からの借金が約半分入っているケースが多く、金利が上昇すると、利息負担が増えて、配当金が減りやすくなる
  • 利回り商品であるリートを投資信託で購入すると、年間1%以上の運用管理手数料を取られるので、「担当者への相談ができる」などのメリットがなければ、個別株のように市場で購入した方が、儲けが増えやすい
  • 現在の金利上昇は、マンション価格や商業施設の価格にも影響が出て来そうなので、投資を続けるのであれば、金利や不動産価格の動向には注意を払っておいた方がいい

と言えるでしょう。

今後の投資の参考になれば幸いです。

 

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