この記事では、日興アセットマネジメントの投資信託「ラサール・グローバルREIT(以下「ラリート」)」について、
- 基準価格の動き
- なぜ下がっているのか?
- 注意すべきリスク
- どんな人に向いている商品なのか?
の4点を中心に解説していきます。
1、基準価格の動き
まずは、ラリートの基準価格について見てみましょう。
2023年8月1日現在において、基準価格は1口あたり2,074円となっています(青色の線)。
この投資信託は、この5年間で毎月10〜40円の分配金を出しているため、2018年1月からの分配金を含めた価格は、3,189円となります(緑色の線)。
(参考:日興アセットマネジメント 「ラサール・グローバルREIT」)
なので、どこで買ったら儲かっているのか?は、緑色の線で見て判断します。
2022年以降は、分配金込みでも、ほとんど横ばいとなっていることがわかりますね。 また、分配金を除くと、2022年以降は下落傾向にありました。
2、なぜ、下落しているのか?
金利が上昇した
最も大きな理由は、金利の上昇です。
2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻した頃をきっかけに、世界的に資源や食糧などの不足が目立つようになって、物価が上昇し始めました。
その結果、アメリカでは、2022年の物価上昇率が約8%まで上がってしまったのです。
このような状況を受けて、アメリカの中央銀行であるFRBが、政策金利を0.25→5.25%にまで引き上げています。そして、REITの価格は、まさにこのタイミングで下落を始めているのです。
ラリートは、世界中のREITを投資対象としていますが、その約8割がアメリカで、次いで日本が、約8%となっています。つまり、アメリカの利上げによる影響が、ものすごく大きいのです。
そして、ラリートの組入上位5名柄の価格推移を調べてみたところ、2022年ごろをピークに、どの業種においても、下落していました。
ちなみに、上位10名柄は全てアメリカのREITになります。
では、なぜ金利が上がったことで、リート価格が下落しているのでしょうか。 この点について、もう少し詳しく解説していきます。
①他の金融商品と比べて、魅力が下がる
REITへの投資をする場合、「値上がりによる利益」よりも「安定した配当」を求める人の方が多いでしょう。
しかし、金利が上昇するということは、このような金利型の商品の魅力が上がることを意味します。そして逆に、リートは、家賃を上げられなければ、逆に配当利回りが下がってしまいます。 例えば、以下のような条件の時に、どちらのリートを買いたいと思うでしょうか?
①金利上昇前 | ②金利上昇後 | |
A)10年国債の利回り | 0.5% | 3.9% |
B)リートの利回り | 4% | 4.2% |
利回り差(BーA) | 3.5% | 0.3% |
おそらく、②金利上昇後よりも、①金利上昇前の方が、リートに投資したくなるでしょう。
実際、アメリカの10年国債とリートの配当利回りは、金利引き上げ前の2021年ごろまでは、2〜4%の金利差がありました。 ところが、金利引き上げ後は、ほとんど差がなくなっています。
そして、価格(リート指数)も下落傾向にあるのです。
現在、アメリカでは、「年内にあと2回は利上げをする可能性がある」とFRB議長が言っていますので、さらに金利が引き上げられる可能性があります。
そうすると、米国債の金利も上昇しますし、リートの利回りを上回ってくる可能性も十分にあります。
金利が上がりすぎると、景気も悪くなりますから、家賃を上げることも難しくなるため、価格を下げることで、利回りを引き上げることになるでしょう。
(例えば、物件価格が100万円で、家賃が年3万円ならば、年利3%ですが、物件価格が50万円で、家賃が年3万円であれば、年利6%になります)
②実体経済に悪影響→家賃収入も減少
今回の政策金利の引き上げは、借金をしにくくすることで、企業や国民の買い物の量を減らし、モノの値段を下げることを目的としています。
ということは、企業の売り上げは減少し、労働者の収入が減る、ということにつながります。
その結果、ネット通販や、ショッピングモールの売り上げ減少、持ち家や自動車などの高額消費の減少など、幅広い業界で影響が出ます。
それはつまり、賃料収入の減少につながりますので、それを見越した投資家は、早めの売却に動いているわけです。
3、これからどうなるのか?
ラリートを保有し続ける上で、今後注意が必要なポイントをまとめました。
①アメリカ10年国債の金利と、REITの配当利回りの金利差がほとんどないのは異常か?
アメリカの利上げはまだ続いており、10年ものの米国債の金利はすでに4%台になってきています。これは、米国REITの配当利回りとほとんど同じ水準です。
米国債よりもREITの方がリスクが高いわけですから、投資家が求める配当利回りも、米国債よりも高くなってくるはずです。
ところが、実際にはそうなっていません。
「今後もREIT市場は拡大を続けて、家賃も上がってくるはず」「利上げはもう終わって、逆にもうすぐ利下げに転じるだろう」などの期待があるため、この水準で評価されているのかもしれません。
ですが、その期待が間違っていたと気づいたら?その時は、価格下落を通じて、利回りの上昇が起こるでしょう。
②借金の金利が上がるため、利払い負担が増え、配当が減っていく可能性
リートは、家賃収入がもらえる不動産への投資を行っているため、企業の株式に比べてリスクが少ないと思われがちです。
ですが、リートは、投資家のお金だけでなく、金融機関からのお金を借りて、物件を投資しています。
では、どの程度の借金をしているのか?
ラリートの組入上位10銘柄の、負債資本倍率(借金が、自己資本の何倍あるのか?)を調べた結果がこちらです。
*例)負債資本倍率が0.5倍→自己資本(投資家のお金)が100億円の場合、借金が50億円ある、ということ
組入上位銘柄 | 組入比率(%) | 負債資本倍率(倍) | 用途 |
プロロジス | 7.13 | 0.48 | 産業施設 |
アヴァロンベイ・コミュニティーズ | 3.98 | 0.68 | 住居 |
デジタル・リアルティ・トラスト | 3.91 | 1.02 | データセンター |
パブリック・ストレージ | 3.70 | 1.19 | 個人向け倉庫 |
エクイニクス | 3.57 | 1.29 | データセンター |
エセックス・プロパティ・トラスト | 3.52 | 1.03 | 住居 |
リアルティ・インカム | 3.50 | 0.63 | 商業・小売 |
インビデーション・ホームズ | 3.37 | 0.53 | 住居 |
サイモン・プロパティ | 3.09 | 7.67 | 小売 |
VICIプロパティ | 3.00 | 0.69 | ゲーミング・カジノ |
業種によって、倍率が異なりますが、1倍以上の会社は、自己資本以上の借金をしているため、金利上昇による影響が大きいでしょう。
特に、ショッピングモールなどの商業施設の運営を行っているサイモン・プロパティは、約250億ドル(約3.5超円)もの借金がありますので、金利上昇による影響がかなり大きくなってきます。
実際に金利負担が増えるのは、借り換えが行われるときなので、全ての借金の金利がすぐに高金利になるわけではありません。
ですが、時間が経てばたつほど、金利負担が増えていきますし、配当金に回せるお金も減っていきます。
4、どんな人に向いている商品なのか?
ラリートのこれまでの動きや、今後のリスクについて解説してきましたが、ここでは、どんな人に向いている商品なのか?について、あらためて整理したいと思います。
運用手数料に見合う対価とは何か?
ラリートは、投資信託ですので、運用手数料がかかります。 主なものとしては、
手数料の種類 | 手数料率 |
購入時の手数料(販売会社による) | 最大3.3% |
運用管理手数料 | 年率1.65% |
信託財産留保金(解約時にかかる) | なし |
などが挙げられます。
ちなみに、ラリートが含まれるマザーファンドの実績配当利回りは、だいたい4.3%程度です。(2023年6月末時点)
購入時の手数料と運用管理手数料で、最大で約5%かかりますので、最初の1年間の配当収入は、これらの手数料を差し引くと、実質0.7%程度のマイナスとなります。
また、2年目以降についても、年1.65%の運用管理手数料かかりますので、配当収入は約2.65%程度になると言えます。
このような手数料の構成から見ても、ラリートは、少なくとも2年以上の保有を前提とした投資信託と言えるでしょう。
リートETFに直接投資するのと、何が違うのか?
ですが、米国のリートは、日本の株式市場にも上場しているものがあります。
具体的には、「iシェアーズ 米国リート ETF」がその1つで、1株単位、2,800円程度から購入が可能です。
株式市場に上場しているリートのETFへ投資するのであれば、購入時の手数料は、ネット証券ならば0.1%前後、運用管理手数料はかかりません。
ラリート | 証券会社でリートETFを購入 | |
購入時の手数料 | 最大3.3% | 約0.1〜1% |
運用管理手数料 | 年1.65% | なし |
売却(解約時の手数料) | なし | 約0.1〜1% |
合計(1年保有した場合) | 約5% | 約0.2〜2% |
1年保有したと仮定した場合の、かかる手数料の差を見ると、かなり違うことがわかりますね。
1年で3〜4.8%も違うのであれば、購入する側から見れば、それに見合った何かを期待しますよね。
では、具体的に、どんなメリットがあるのでしょうか? 元証券マンの視点で見ると、
-
- 運用会社による細かいレポートで、現状をフォローしてもらえる
- 営業担当者からのアドバイスがもらえる
が、主なメリットだと言えるでしょう。
つまり、投資初心者や、担当者にアドバイスをもらいながら、投資を続けるつもりの人にとって、最適な商品ということですね。
逆を言えば、買う時にだけ熱心に勧めてきて、その後はまったくフォローがない、という担当者のもとでは、ほとんどメリットはありません。
リートのETFなどをネット証券などで直接購入した方が、はるかに安上がりですし、余計な手数料を払う必要もないため、利益が増えるでしょう。
まとめ
ちょっと長くなってしまったので、まとめると、
- 米国REITは、2022年ごろからの物価上昇を受けて、政策金利をかなり引き上げており、その影響から、価格の下落が進んでいる
- 利回り商品であるリートを投資信託で購入すると、年間約1.65%の運用管理手数料を取られるので、「担当者への相談ができる」「海外の投資情報を詳しく知りたい」などにメリットを感じなければ、米国リートのETFを購入した方が、儲けが多くなる可能性が高い
- 米国REITは、投資家のお金だけでなく、借金をして物件を購入しているため、今後も高金利が続くのであれば、利払い負担が増えて、配当が減る可能性がある
と言えるでしょう。 今後の投資の参考になれば幸いです。
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